むべやまかぜを
「二週間で新書一冊なんて、そういうことができる人もいるんだろうけど、そういう書き飛ばした作品の質ってやっぱり劣っているわけで。二週間で建った家は二週間で崩れる。それだったらこっちのやり方のほうがまだましっしょ。一人二週間で、四人で八週間。八週間もつ作品だったら……それでも、まあ哀しいか。でも、仕方がない」
少女は集まった作り手たちの顔を見ている。
――こいつらならば、大丈夫。大崩れはしないし、また、自分の割り振られたパートをそつなくこなしてくれるに違いない。
物書きヤクザはそのように判断している。
「まだ話は決めてないけれど、三人の女性が、次々にいやらしい目にあっていく、と……そういう状況に持っていけるようにこっちのほうで話を作るわ。お話は、そうだね。やりやすそうなものを選んで」
少女は続ける。
「まずは名前。けれど今はちょっと待って。一晩だけ考えさせて。名前については明日までにみんなにメールすっから……」
名前は大事。
そこから惹起されるイメージについてももちろんそうだが、それよりも大事なのは名前に集まってくる空気のようなもの。言霊。生まれてくる言霊のようなものを大事に育てる。それが作り手のなすべきこと。伸びたいものを伸びたいように。で、あるから作り手は育て手。よい作り手は良い名前を作り、良いキャラクターを育む。ダメな作り手になりたければ良い作り手と反対のことをすればそれで事足りる。
「話はやっぱり正統派のファンタジーがいいか」
丸山花世はぼそっと言った。やりやすいもの。自分ができそうなもの。簡単とは言わないが、時間がないのだから、難解なものには手を出す暇がない。それに。
「うん。やっぱり、ファンタジーにしよう。現代モノとかだと、実在する女の人の名前をつけたりしなきゃいけないわけで。そうなると、作品のキャラと同じ名前の女の人、嫌な気分になると思うし」
少女は女性の目線で言った。カヨであるとか、ヒロコ。そういう主人公では同名の女性は読むに耐えないのではないか。丸山花世の決断にほかの作り手たちは笑った。
「女の人は、四次元は読まないですよ、丸山さん」
龍川が言い、そして、山田も笑って言った。
「ああ。女で読んでるの、見たことねーな。でも、お袋の名前と同じキャラのエロ作品は、俺も嫌だよなあ。萎えるわ」