むべやまかぜを
「そうだな。美人の先生は美人の先生。先輩は先輩。幼馴染は幼馴染。マンガなりゲームでこれまでに営々として築き上げられたイメージのただ乗り。説明省けるから書くほうも読むほうも楽だわな」
「でも、それって作者と読者の『怠慢の共謀罪』だと思うんだよね……」
何か新しい地平を切り開くのが作り手の役目だろう。龍川はそう信じて疑わない。一方、山田のほうは若者の理想論にはもはやつき合わない。それはまた今度。酒飲みついでの話にでもすればよい。
「丸山さんが好きなものを作るといいよ。僕らはそれについていくから」
伊澤がそのように話をまとめ、少女は、黙ったまま男達のことを見やった。物書きヤクザの演算は終わったのだ。
「うん。それだったら」
エロ担当の三人。分隊長となった少女は一人一人を見ながら言った。
「もう、決めたことがあるので、それから説明をするわ」
花世は立ち上がると会議室のホワイトボードに向かった。
「えーと、話の内容については、まだ詰めてないんだけど、とりあえず作品の基本構造だけを話すわ」
大井一矢の話していたこと。ゲームのシナリオと同じやり方をする。丸山花世はそのことを覚えている。
「まず、時間がないわけで。だから、順番に新書の頭のほうから作業をしていくのでは間に合わない。設計図だけ渡して、よーいドンでみんなが一斉に仕事に取り掛からないといけないわけで。だから、さっさとやることにする。まずはキャラから」
物書きヤクザはそういってホワイトボードに向かう。
「エロラノベだから、然、女性が出てくる。女性キャラね。このキャラを三人にして」
甲乙丙。少女はそう縦にボードに書き記す。
「この甲乙丙を一人ずつみんなに割り振る……と」
丸山花世は甲乙丙という文字の横に集まった命知らず共の名前を書き込む。
甲 いざわ 乙 やまだ 丙 たつかわ
「一人一殺……ではなくて、一人一姦?」
丸山花世は自分が作った新造語の不細工さに辟易している。
「こういうやり方は、なんと言うか、機械的で、非人間的な気がして好かんのだけれど、もはやこれしかやりようがない」
丸山花世は苦渋の表情である。