むべやまかぜを
伊澤はやはり人格者である。年上の先輩にたしなめられて博打男もガテン作家もあっさりと矛を収めた。もともと言い争いをしているわけではない。どちらが正しいわけでもない。むしろ、相手の意見は実は一度は自分も思い至った考え。そして二人の結論がこれからもずっと同じというわけではない。博打男もガテン作家も意見が変わるということは十分に有り得ること。
いずれにせよ意見をぶつけ合うことができるのは現場がまともに機能しているということ。ルーチンワークになった仕事には未来はないのだ。
――案外まともな連中であるな。
少女はそんなことを思っている。そして伊澤が言った。
「そういうわけだから、まあ、物語りの流れについてはやっぱり丸山さんにお願いしよう」
伊澤は穏やかに言い、そこで丸山花世は頷いた。
「まあ、そういうことならば……やりますがね」
良くはわからないが、テキトーにやればいいのだろう。少女は一瞬、思案して、それから口を開いた。
「ええと……うーん。それで、SFはダメなんですよね?」
「ダメじゃないけど、売れないなあ」
山田が言った。作品に対するスタンスは違うが、SFがダメだというその一点に関しては龍川も意見は同じらしい。
「SF系のエロは本当にダメだよね。四次元が出るずっと以前、二十年ぐらい前の作品にはそういうの結構あったんだけれどいつの間にか全滅してしまったよね。作者の人たちもほとんど残っていない」
黙って作り手たちの話を聞いていた岡島も頷く。
「SFはダメです。豊中さんの作品もSFベースでしたけれど。っていうか、豊中さんの作品はジャンル以前の話でしたが。宇宙船のエンジンについて延々と解説されても、こっちとしてはどうしようもないんですよね。そんなもの誰も望んでいないっていうか。けれど、そういうの書く人、何故か多くて」
編集殿は疲れ果てたようにして言った。丸山花世はそこで頷いた。
「ああ、じゃあ、SFっぽいのはダメということですか。あい分かりました」
丸山花世は話しながらすでに作品を頭の中で組み立て始めている。潰して建てて、また潰して。粘土細工と同じである。そういう技術を物書きヤクザはいつの間にか身につけていたのだ。あるいは、それはアネキ分の影響であったのかもしれない。