むべやまかぜを
「WCAに入ってても、あんまり得なことはないっすよ。まあ、入会金とか年会費もいらんから損もしないですけど」
少女は事実をありのままに言い、蔡円がそれに応じた。
「ちょっと宗教っぽいところがあるからなあ。物語を作ることは作品の神様と対話をすることであるとか……試験も相当変な奴だろ。前に知り合いに聞かせて貰ったれど、忘れちまったよ」
丸山花世も自分が受けたテストのことを覚えている。テストはたった一問だけ。
Q 物語の作り手が文学作品の賞を受賞することにおいてもっとも重要なファクターは何か。簡潔に述べよ。
丸山花世はそのようなおかしな試問にパスして晴れてWCAの会員になったのだ。もっとも、会員になっても会報が来るわけでもないし、何か特別な集まりがあるというわけでもない。特典なども皆無。ただ、安物のペンダントを貰っただけ。丸山花世も自分とアネキ分である大井弘子以外の会員には会ったこともないのだ。
「私もなんで、会員になったのか判らん……」
少女はフンコロガシのペンダントをそれが自分のものだというのに不思議そうに見ている。
「いつの間にか……そうなっていた。まあ、特に問題もないので退会したりもしないんですけど、っていうか、どうやって退会するのかも知らん」
丸山花世は彼女にしては曖昧な口調で言った。そして、そこで岡島が言った。
「ええと……それでは、こういうのはどうでしょう?」
何がこういうのは……なのか。話のつながりがよく分からないが、要するに編集殿は話をさっさと進めたかったのか。
「WCAはの話は置いておくとしてですね、仕事の話なのですが」
「ああ、そうだね。そろそろ始めようか」
伊澤が頷いた。全ての作家に異論はない。
「ええと、それで、今回の作品については、詳しいことは電話で話したとおりなのです」
岡島が言った。
「四人でそれぞれブロックごとに話を書いてつなぎ合わせるってことだろう?」
蔡円の言葉に編集殿が頷いた。
「そうです」
そして丸山花世は心配げに尋ねる。
「うちのアネキが言い出したことですけれど、そんな変なこと、誰かやったことあるんすか?」
物書きヤクザの問いに対する答えは簡単だった。全員がいっせいに首を横に振った。