むべやまかぜを
「へえ。一矢さんのところの……え? ってことは親戚か何か?」
「ま、そんなところです。本家と分家、ですか」
丸山花世は悪びれずに言った。
「はあ。そうなんだ。ふーん。一矢さんのところのお店、新橋にあるお店には何回か行ったことがあるよ。駅前の競輪の車券売り場に行った帰りに。ええと、なんて名前のお店だったかな。地下にあるんだよな」
「イツキです」
「そうそう。イツキ!」
タブロイドの男はやはり博打好きであるらしい。それにしても大井一矢。たいした著名人ではないか!
「茶碗蒸しがうまいんだよな。あの店……」
山田は言い、物書きヤクザも答える。
「よく知ってますね」
丸山花世は、自分が崩れたところがあるので、だからこの博打好きの男になんとはない親近感を抱いている。と、伊澤が言った。
「僕と山田君と、丸山さん。三人ですか? 岡島さん、集まるのは?」
「いや。あとは、龍川君が来ます」
岡島がそう答え、山田が頷いた。
「ああ、綾二君。あのガテンの兄ちゃんか」
「ガテン? ガテンってなんですか?」
少女は尋ねた。少女の質問に、タブロイドの博打好きが答えてくれる。
「龍川君は工事現場でアルバイトやってんだよ。山形だかから出てきて。エロだけじゃ喰ってけないから、それで、アルバイトをしている」
蔡円の言葉に伊澤が続ける。
「この業界、副業持っている人のほうが多いよなあ……山田君は野菜作ってて、横峰君は学校の教師。僕も古書店の店員やってるし……」
「原稿料だけでは喰ってくの大変だしなあ。よっぽどのことだよな。これ一本で生きてる人って」
山田が言った。そして満足に稿料を払えない岡島は苦い顔をしている。
「こちらとしてもできればきちんとお支払いしたいのですが、何といってもニッチな産業でして」
「岡島さん主張の六千限界説、か」
菜園男が楽しげに鼻で笑い、そこで丸山花世が尋ねる。
「なんなんですか、その六千限界説って?」
少女の疑問には伊澤が答えてくれる。
「えーと、それは、岡島さんの説なんだよね。特殊な性癖を持っている人間は日本で六千人」
「はあ? どういう意味ですか?」
伊澤の説明はかなりアバウトなもので、であるから補足が必要だった。そして岡島自らがその補足役を買って出る。