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むべやまかぜを

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 アネキ分にもらった古着のジーンズにピンクのブラウス、モスググリーンのジャケット。前回と違い、私服姿の物書きヤクザは感心するというよりもむしろ呆れている。
 「多分、ダメだと思ってたから、昨日の夜、アネキのほうから電話貰ったときは結構びっくりしたっていうか」
 少女の言葉に岡島は青い顔をしたまま言った。
「まあ……八方手を尽くし……ました……からね……」
 まさに青息吐息。フルマラソンを走りきったような編集殿は続ける。
 「電話掛けまくって、知り合いに頭下げまくって……それでなんとか……間に合いました……」
 キメラのようなエロラノベ。
 大井一矢の余計な一言から始まった瑣末なプロジェクト。栄光も栄冠もなければ、後になってテレビのドキュメント番組で取り上げられることもない後ろ向きでどうでもいい仕事。
 「で、ほかの人たちは?」
 物書きヤクザは訊ねた。どうも、会議室への入りは花世が一番早かったらしい。時刻は一時をちょっと過ぎる。物書きにとってはもしかしたら早い時間になるのかもしれない。
 「すぐに来ますよ」
 「そいつら、ホントーに信用できんの?」
 丸山花世の言葉に岡島は頷いた。
 「大丈夫ですよ。豊中アンジーとは違います」
 岡島は続ける。
 「どんな業界でもそうですけれど、能力だけじゃ生き残れないですよ。社会性がないと」
 「そりゃまあ、そうだね」
 少女はあいまいに頷いた。花世自身の社会性については、少女は特にコメントをしなかった。やがて。
 「ああ、どうも……」
 会議室に一人の男が入ってくる。タートルネックのセーターをつけた僅かに小太りの男性。年のころは三十半ばか。
 「ああ、お待ちしていました……」
 岡島が迎え、そして黒いかばんを抱えた男は言った。男のかばんは濡れていた。雨脚が強くなってきたのか。
 「雨も、この季節には悪くないですね。花粉症にはありがたいですわ」
 男はかばんを机の上に置くと言った。
 「岡島さん、この子は? 彼女?」
 「いいえ。違います」
 岡島ではなく、丸山花世がはっきりと言った。そのようにはっきりと否定するのは少女としては当然のことなのだが、編集者としては間髪入れないヤクザ娘の反応に少し傷ついたようである。
 「ええ? あ、じゃあ、君もライターさん?」
作品名:むべやまかぜを 作家名:黄支亮