むべやまかぜを
――マラカイボ教授はいじめに悩んでいたブボーを言葉巧みに研究所に呼び出し改造人間にしてしまう。
「うわー、すげーテキトーな展開! いいねいいねー! うはははっ!」
丸山花世は目を見張っている。
――かくして、ブボーは鼻をペニスに改造され、鼻チン人間としてチンゲヌス帝国と、さらには世の偏見と戦うことになった!
「鼻チン人間! 鼻がチンチンなんだ! ぎゃははは! ペニスなの? それってどういうことなんだ?」
少女は笑い転げている。
「っていうか、世の偏見と戦うって……なんじゃそれ! だいたい地球を支配するっていうチンゲヌス帝国、ただ月の裏側でうろうろしてるだけで特に悪いことしてないし……むしろ、他人の鼻をチンチンに改造する教授のほうがよっぽど極悪じゃんか!」
――伏線であるとかプロットといったものは作品においては全然重要ではない。大事なのはその時の作者の気分。
それが豊中アンジーの主張。実に清清しい意見ではないか。
――戦え武望! さつ
やたらとエクスクラメーションマークの多い物語は突然そこで切れていた。そして丸山花世の息も切れている。
「はあはあはあ……さつ……なんだ? 何? さつって……」
アンジーは『さつ』の後に何を書きたかったのか。どういう物語をつむぎたかったのか。残念ながらそれを知ることはかなわない。
「ひー、おかしい……な、なんだよ、人類ホチン計画って……」
少女は肩で息をする。女主人も、編集者もしばらく沈黙する。
爆笑の後にはいつでも哀しみがつきまとう。物書きヤクザも、腹を抱えて笑った後に寂寥感を味わっている。そこで黙っていた岡島があらためてこう言った。
「丸山さん、これ、商品にできると思います? 本当に商品にできると思いますか?」
岡島の問いに少女はうなった。
「うーん」
出版するべきだと笑って言ったものの、丸山花世も不安を感じている。
「これを、普通のお客さんが買ってくれると思います?」
全ての作品には生まれるだけの意味があるし価値がある。
少女は確かに言った。それでは豊中アンジーの作品が生まれてきた意味とは何?
丸山花世も馬鹿ではない。作品の意味と商品としての価値が違うことは理解している。