むべやまかぜを
「やってもらったらいいじゃん。そのアンジーとかいう奴に。最後まで」
花世は言った。随分とおかしな話に小娘ははすでに半分にゅうめんのことを忘れている。
「それがですね」
オカジーは突然暗い顔をした。
「いろいろとプロットを上げてもらったりして、それで、まあ、大丈夫だろうと最初は思ってたのですが……」
どんな現場でもそうだが、トラブルの原因は最初の見通しの甘さにあるのだ。
「最初の三十枚ほどを送ってもらったんですが、これが、ひどいものでして」
「直してもらえばいいじゃん」
花世は簡単に言った。オカジーは苦しげにうめいた。
「いや、それは言いましたよ。四回ほど。三十枚ほど書いてもらって、総ボツにして、また三十枚ほど書き直してもらって、それでまた総ボツにしてってそうやっていたらあっという間に半年が経過し……」
「経過し?」
「ついに……豊中との連絡が途絶しました」
ふーん。花世は頷いた。
「今日十時までに連絡を入れるといっていたのですが当然のように連絡はなく」
少女は街金の社員のようにして言った。
「家に行ったら? どうせ家にいるんでしょ?」
「大阪なんですよ。うちみたいな弱小版元、新幹線代なんか出ませんよ」
なるほど。少女は適当に頷いて。割り箸をタクトのようにして振った。
「でもさ、それってオカジーも悪いんじゃないの? そんな何回もやり直しなんてさ、書き手としては結構しんどいよ。そのアンジーもどうしてもやってみたい作品だったんでしょ? だったらそいつの思い通りにやらせてみればよかったじゃんか」
丸山花世は編集ではないので、だから作り手にどうしても甘い採点をしがちになる。
「物語ってさ、どんなへんちくりんな作品でも生まれる意味があって生まれて来るんだよ。そのへんちくりんぶりを含めて全ての作品を許すのが本当の意味で作品を愛するってことなんじゃないかな?」
小娘は小生意気にも大の大人に説教を垂れている。