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舞え舞え蝸牛

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そのとき。
「イチー!」
よく知った者の弾んだ声が聞こえてきた。
いつもであれば、この藩校内にいるはずのない者だ。
品川嘉二郎、松風の塾の塾生である。
その家の家格は卒族である中間、名字はあくまでも自称、帯刀はゆるされておらず、藩校への入学資格もない。
しかし、松風の塾ではそうしたことは関係がない。
塾内だけ、身分というものが取り払われているのだ。
そして、嘉二郎は頭があまり良くはないが、その性格の良さから松風にたいへん気に入られている。ひいきされているといってもいいぐらいだ。
嘉二郎が元気いっぱいな様子で近づいてきた。
「イチ」
イチは市之助の愛称だ。
市之助のことを塾生はたいていそう呼ぶ。
「カジ」
市之助は嘉二郎の愛称を口にした。
ふたりは仲が良い。
「あ、高杉」
嘉二郎の眼が高杉に向けられた。
「神主さんみたいな格好だね!」
天真爛漫な笑顔だ。
「カ、カジ、これは狩衣装束って言うんだよ」
慌てたように市之助が説明を始める。
そんな市之助を見ていて、高杉は遠くに知人の顔がふたつあるのに気づいた。
ぎょっとする。
吉田英太と入江佐一だ。
ふたりとも松風の塾の塾生である。
家の家格が卒族で英太は足軽で佐一は中間であるため、藩校への入学はゆるされていない。
ただし、身分ではなく学力だけで入学を許可するのかどうかが判断されるのであれば、ふたりの入学を許可しない学校はないだろう。
それぐらい、ふたりとも頭が良い。
だから、高杉、久坂、英太、佐一、の四人は、四天王と呼ばれている。
佐一は穏やかな性格だ。たまに天然すぎる発言をして聞かされたこちらの眼が点になることもあるが、まあ、いい。
問題は、英太だ。
あの頭のキレの良さと舌鋒の鋭さは油断ならない。
つけいる隙をほんの少しでも与えてはならない相手である。
作品名:舞え舞え蝸牛 作家名:hujio