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舞え舞え蝸牛

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市之助がそばまで来た。
立ち止まり、言う。
「よく似合っています」
拳を強く握っている。
狩衣装束を褒めているらしい。
高杉はわずかにうなずく。
素っ気ない態度だ。
しかし、不愉快なのではない。
照れくさいのをごまかしたかっただけだ。
その一方で。
「盛況ですね」
市之助はあたりを見渡した。
「ああ」
つい同じように高杉は周囲に視線を走らせた。
これだけ来ているうち、どれだけが舞を見に来るのだろうか。
そう思うと、身体がかすかに緊張した。
「……なァ、久坂は今、なにしてるんだ?」
ふと、大勢の者に見られ慣れているだろう者の顔が頭に浮かんだ。
高杉が準備をしているあいだに控室にはいろいろな者がやってきたが、公開日の運営会の会長は来なかった。
あいさつぐらいするべきではないのか。
だいたい、自分が頼んできたことなのに。
胸を軽く引っかかれたようなイラだちを覚えた。
「久坂さんですか」
市之助の眼が泳ぐ。
少しして。
「お忙しいようです」
そう答えた。
「ああ、校内を走りまわってんのか」
高杉は察した。
会長なのだから、公開日当日は忙しくて当然だ。
各種催し物の指示や突発的事故への対応などに追われているのだろう。
もしかすると、舞を見にくることもできないかもしれない。
残念だ。
そう思ったあと。
いや、残念だと思うのは、ヤツに見てもらいたいからではなくて、ヤツに見せつけてやりたいからだ。
即座に、心の中で言い訳する。
作品名:舞え舞え蝸牛 作家名:hujio