小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

舞え舞え蝸牛

INDEX|6ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

「では、高杉、俺はこれから少し外の様子を見てくる」
ようやく先輩は高杉の手を放した。
「はい」
高杉は何事もなかったかのように返事をした。
内心、ほっとしていた。
悪意のある相手なら容赦なく突き放すが、善意に満ちた相手はそういうわけにはいかないので難しい。
先輩が去っていった。
さて、どうするか。
まだ時間はある。
軽く稽古しようか。
いや。
高杉も外の様子が気になった。
だから、見に行くことにする。
控室には演奏担当の者たちもいて、衣装を整えたり楽器の調整をしたりしている。
彼らの視線を感じる。
その眼差しは温かい。
これまで熱心に稽古する高杉を見てきたことで、好印象を持っているのだろう。
そういえば、さっき、彼らからも礼を言われた。
それを高杉は思い出した。
嬉しくないわけではないが、礼を言うのはまだ早い気がする。
本番で成功するかどうかわからないものの、とりあえず、これまでがんばったことに対するねぎらいだろうか。
少し不思議に感じながら、高杉は控室を出た。

校内を普段は見かけない人々が行き交っている。
「高杉さん!」
聞き覚えのある声が呼びかけてきた。
右のほうからだ。
高杉は足を止め、そちらを見る。
山田市之助だ。
小柄で童顔なので、かなり幼く見えるが、いちおう元服済みである。
高杉よりも年下の藩校生だ。
家の家格は高杉と同じで、藩内では高いほうであり、親族には藩の要職に就いている者が多い。
松風の塾にも通っている。
だから、比較的、親しい。
作品名:舞え舞え蝸牛 作家名:hujio