舞え舞え蝸牛
「それは、おもしろ、あ、違った。今のは取り消し」
「今、おもしろい、って言いかけたよな!?」
あわてたように口を右手でふさいだ者を、高杉はキッとにらむ。
けれど、やっと、わけがわかった気がした。
なぜ舞を得意としていない自分が指名されるのか。
「そうか、そういうことか」
低い声で言う。
「俺を見せ物にしたいってことかよ」
高杉は久坂とともに、学業成績優秀で、他の生徒たちを圧倒している。
しかし、久坂は人あたりが良くて多くの者から慕われているのに対し、高杉は取っつきが非常に悪い。
反感を買っているのかもしれない。
だから、得意でないことを、たくさんの人が多く集まる場所で披露させて、恥をかかせようとしているのかもしれない。
高杉は拳を強く握った。
「おもしろいじゃねェか」
全身を流れる血が熱くなったように感じる。
負けん気に火がついた。
「やってやろうじゃねェかよ!」
語気荒く、告げた。
直後。
おお、と生徒たちのあいだから声があがった。
彼らの顔が輝いている。
「やってくれるか、高杉……!」
「よろしくお願いします!」
「俺は舞の演奏を担当しているから、いつでも稽古につきあうぞ」
かなり嬉しそうだ。
浮かれている。
一方、高杉は厳しい表情をして黙っている。
稽古を重ねて、公開日には見事な舞を披露して、コイツらをがっかりさせてやる。
そう堅く決意した。
そんな高杉の近くで、久坂は眼を伏せた。
「……まさか、引き受けるなんて」
ボソッとつぶやく。
いつもの美声には陰りがあった。
だが、その声は小さく、なおかつ他の者は違うことに気を取られているので、だれも久坂の言ったことを聞いていなかった。