舞え舞え蝸牛
生徒たちが距離を詰めてくる。
どうやら彼らは今まで素知らぬふりをして高杉と久坂の会話を聞いていて、しかし、黙っていられなくなったらしい。
「高杉、公開日で舞を舞ってくれ、頼む」
「俺たちの期待に応えてほしい」
「これは、ここにいるみんなの希望なんです」
「高杉さんの華麗な舞が見たいんです。お願いします!」
彼らは高杉をひたと見すえて、口々に言った。
この藩校への入学は女子には認められてない。
だから、男ばかりに取り囲まれている。
しかも高杉は小柄なほうなので、自分よりも大きくていかつい者が多い。
そんな者たちが、真剣そのものの様子で、迫ってくる。
うっ、と高杉は怯みそうになった。
この状況は、いったい……?
「なんなんだ、どういうことなんだ、なんで公開日に舞を舞わなきゃならねェんだ!? ここでの教育の成果とは関係ねェだろうが!」
自分の中の弱気をねじふせて、高杉はほえた。
まわりには先輩もいるが、言葉遣いは荒っぽいままだ。
しかし、彼らはほんの少しも揺るがない。
「風流を解するのも、武士として必要なことだ」
「だから、それに親しむための会が定期的に開かれているではないか」
指摘されたとおりだ。
月に二回、詩会が開かれている。
それだけではなく、月に三回、音楽会が開かれる。
公開日には、そうした芸術分野の発表も行われるのだ。
そう思えば、舞を披露するのも、おかしなことではないように感じる。
だが。
「じゃあ、なんで舞を舞うのが俺なんだ!?」
なぜ舞手として自分が指名されるのか、まったくわからない。
高杉も風流には親しんでいる。
詩作はなかなかのものだと自負しているし、楽器、特に三味線の演奏は得意だ。
実際、詩については公開日で発表されることが決まっている。
楽器演奏のほうはなにも言われていないが、依頼が来ても不思議ではない。
しかし、舞については特に秀でているわけではない。
この藩校には舞を得意としている者がいるだろう。
それなのに。
なぜ。