舞え舞え蝸牛
「あー…」
たいへん気まずい。
「……悪かった。すまん」
ためらいはあったものの、結局、素直に謝ることにした。
自分が勘違いして引き受けたせいなのだから。
思い返せば、まわりの者の言動はいろいろとおかしかった。
今日にしても、舞を舞うまえに感謝されたりした。
あれは、高杉のおかげで久坂の女装が見られるということに対してだったのだろう。
「謝らなくていいよ」
久坂が顔をあげて、高杉を見た。
軽く笑う。
「まあ、こうなったらこの状況を楽しんでやるって思ったし」
けれども、その声にはかすかにヤケクソのような響きがあった。
実際は、かなり嫌だったのだろう。
申し訳ない。
そう高杉は思いつつ、だが、おもしろさも感じる。
久坂はいつも笑っている。
水面をゆく白鳥のように優雅に。
しかし、それは仮面のようなものなのかもしれない。
今、その余裕がなくなり、本音があらわれている。
そんなふうに感じて、愉快に思った。
だから。
「来年の公開日も、また、おまえの女装を見たいって要望が多数出てくるかもしれねェぞ」
つい冗談を言った。
すると。
「来年はやらない」
久坂の断言した。
「二度とやらない、こんなこと」
その笑顔は凍りついている。
かなり珍しい。
まちがいなく、本音だ。
高杉は声をあげて笑いそうになった。
だが、こらえる。
申し訳ないと本当に思っているので。