舞え舞え蝸牛
晩秋の薄い光を浴びつつ、清らかな空気の中、高杉と久坂は舞い続ける。
楽の音はふたりと戯れ、そして、高い空へと昇っていった。
「知らせてなくて、ごめん」
久坂が詫びた。
笑っている。
だが、その笑みは少し苦い。
「高杉を驚かせようとしたわけじゃなくて、賭けだったんだ」
舞の披露が終わったあと、控室の近くで話をしていた。
どういうことなのか。
それを高杉は久坂に問いただしたのだった。
高杉も久坂も舞のときの衣装そのままである。
「賭け?」
「ああ」
久坂の笑顔の苦みが増した。
あまり話したくない事柄であるようだ。
「公開日にどんなものがあったらいいかを何人かに聞いてみた。そしたら、ひとりが、僕の女装が見たいって言いだしたんだ」
その眼が伏せられた。
「それが、あっというまに広がってね。多くの者が、見たい、見たいって言いだして」
この様子から判断すると、どうやら久坂は嫌であったらしい。
なんとなく先が読めて、高杉は胸にうっすらと気まずいものを感じる。
「無視できないぐらいになった」
久坂はいつも優しい笑みを浮かべているが、実は、腹黒い一面もある。
容赦なくバッサリと他人の言動を切り捨てるときもある。
しかし、基本的には善人なのだ。
「どうしようか考えて、賭けをすることにした」
「俺が公開日で舞を舞うことを承諾したら、おまえは女装して舞うってか?」
「うん」
その賭けは、要望が多くて無視できないから、久坂が提案した賭けなのだろう。
つまり。
久坂は女装を回避したくて、自分が勝つような賭けの内容を考えて。
そして。
負けたのだ。
予想外だったのだろう。
高杉が引き受ける、なんて。