舞え舞え蝸牛
相変わらず、視線は久坂に集中しているようだ。
それでも、高杉は舞う。
雅な音楽に合わせ、手を動かす、足を動かす。
指先まで力を入れる。
すべての動きが、無駄がなく、美しい。
観客の眼が自然に高杉のほうにも向けられるようになってきた。
あたりは楽の音以外は静かだ。
一方、久坂も舞い続けている。
もともと人目をひく美貌の持ち主だ。
まるで、そこだけ特別に光が当たっているような。
今はさらに女装までしている。
高杉ほどは稽古をしていないだろうが、存在そのものが美しいので、なにをやっても周囲の者を見惚れさせる。
その腕が動く。
白い袖が、はたり、はたり、と揺れる。
ふいに、強い風が吹いた。
千早が、ふわり、と広がった。
舞っている久坂の顔にはいつもの笑みはない。
無表情だ。
そのため、人形めいて見える。
高杉は久坂がどんなふうに舞うのかを知らない。
この舞については、舞うのは自分ひとりだと思っていたからだ。
久坂の次の動きを知らない。
しかし、久坂は高杉の動きをよく知っているのだろうし、この舞はふたりで舞うものなのだろう。
高杉は身体が覚えている動きをそのまま披露する。
それで問題ないようだ。
久坂の動きを知らなくても、その動きと合う。
そのことに、高杉は楽しさを感じ始めた。
ただ舞うだけではなく、いっそう久坂の動きと合うように気を使う。
それで合うと、おもしろい。
だから、ますます合わせようとする。
今、楽の音に合わせて舞うふたりの動きは綺麗に調和していた。
観客の眼は、ふたりの動きをひとつの舞として、見ている。
天女と狩人の舞。
見た目はまるで違うが、一対。
そう、とらえていた。