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舞え舞え蝸牛

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外は相変わらず、よく晴れている。
綺麗な青空だ。
頬をなでる風は冷たくて、清らかな水に洗われているように感じる。
舞台となる銃陣練習場の端、藩校の塀の近くには、銀杏の木が植えられている。
たくさん生い茂っている葉は黄色に染まっている。
眼に迫ってくるような鮮やかさだ。
高杉は銃陣練習所の中央に向かって進む。
銃陣練習場には予想していたのより多くの人々が来ていて、人垣ができている。
上覧所には藩の重鎮がいる。
高杉は歩き続ける。
やがて、足を止めた。
そこから舞い始めると事前に決めた場所だ。
大勢の者の視線が自分に集中しているのを感じる。
だが、高杉は怯まず、背筋を真っ直ぐ伸ばしたままでいる。
そして。
楽器の演奏が始まった。
典雅な音楽。
それに合わせて、高杉は動く。
扇を広げ、舞う。
何度も稽古した。
動きは身体にしみこんでいる。
狩衣の袖が大きく揺れる。
その動きも、また、綺麗に見えるはずだ。
銃陣練習場はこれだけ多くの者が集まっているわりには静かである。
高杉の舞に見入っているからだろう。
しかし。
ふいに、観客である人垣の一部が崩れた。
いや、崩れたというより、すっと左右に分かれて道を造ったという感じだ。
その道を数人の藩校生たちが急ぎ足で進んでくる。
何事かと気になりながらも、演奏がやまないので、高杉は舞い続ける。
藩校生たちが足を止めた。
その中から、大柄な藩校生たちに隠されていた者が、ひとり、飛び出してきた。
高杉のほうに駆けてくる。
手に袿を持って、頭にかぶるような形にしているので、その顔はよく見えない。
だが。
高杉の近くで立ち止まった。
そして、手に持っていた袿を藩校生たちのほうへと投げ捨てた。
顔が見えた。
高杉は眼を見張った。
久坂だ。
白い小袖に緋袴をはき、白地に鶴と蔦の模様の入った千早を羽織っている。
髪はうしろで檀紙と水引でひとつに束ねられている。
女装だ。
その整った顔には化粧まで施されている。
天つ乙女、という言葉が、高杉の頭に浮かんだ。
まるで天女のようだ。
そう思うほど、美しい。
観客である人垣から、どよめきがあがっている。
作品名:舞え舞え蝸牛 作家名:hujio