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定義

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樹木の定義



 彼は男子校に通っていた。中学の頃、彼は異性がそのスカートの辺りにまとわせている過剰な毒に体中を侵されていた。異性がその微笑みの表面で彼のあらゆる衝動を跳ね返すことに精一杯抵抗していた。異性がその声に含ませる柔らかさと温かさが難解で仕方がなかった。男子校で異性がいなくなると、彼は敵と目標と温度を失った。男子校では、氷河で削られた後の峡谷を疾走するかのように、彼は衝動と暴力と知力とを、どこにも見当たらない目標のあえて端の方へと、発出し解放し散乱させ、他の男子たちのいまだ凍り続ける世界観と人生論を加熱しようとした。
 彼の家の属する町内会のゴミ捨て場の裏側に、一本の桐の木が生えていた。遠くから見ると、その幹はきれいでなめらかな円筒形をしていた。彼はその幹に抱きつきたい衝動を何度も覚えた。それが、その幹が女性の肉体に似ていたからだと気付いたのは彼が成人してからだ。その幹は、彼のさわやかな欲望を抽象的に集めることで密度を増し、彼の執着によっては決して絡めとられない垂直さを枉げず、彼の性の覚醒までにはまとまらない不規則な光線を彼に与えそして奪い続けた。
 彼はあるときその桐の木に近づいてみた。がさつな木肌に彼は欲望を失った。

 入学試験の出来が悪かった。地下の定食屋で焼き魚定食を食べながら、私は下がった体温と乱れた思考と分厚く満ちた感情とをむなしく咀嚼していた。定食屋の、BGMと客の会話と厨房の雑音とを妙に硬く感じながら、それらから逃れるように親に電話した。「俺絶対落ちたよ。」
 家への帰り道、私の意識は白い膜で覆われ、自分が誰でどこにいるかも分からなくなった。かと思うと私の意識は何かに吸い込まれるように暗まり、呼吸と足音だけが私の存在の証拠になった。絶望は、私が記憶へ融合するのを一切停止し、私を満たす植物をけばけばしいもので置き換え、私に地獄の中の刹那の快楽を舐めさせた。私は夜空を見上げた。私は絶望を夜空に拡散させることで逆に絶望に黒の強度を纏わせ、やむを得ず閉ざされた大地の弱さを吸った。
 家に向かう私道の入口に一本の栗の木が植わっていた。私はその木にもたれかかった。私の体は栗の木に完全に結合し、私は自分の体が栗の根によってもはや動けなくなったことを知った。そうやって私は、地下から汲み上げられた自尊心を幹の養分に変え、枝の間を通る風によって過去の栄光が奪われ、わずかに届く月光を葉に受けて心臓に正義をともそうとした。

作品名:定義 作家名:Beamte