定義
肉体の定義
道というものは目に見えないものだ。だが道を生やし、道の代わりに目に見えて、道を導くものはある。アスファルトが敷かれていれば、石畳が敷かれていれば、林の中そこだけ木々が生えていなければ、そしてそれらが長く伸び果てていれば、その上の空間は道となるのだ。
その道は、農産物直売所が多く立ち並ぶ県道から、その影のように分岐した小道で、ずっと進んだ先で、線路とどこまでも同伴するもう一つの県道にぶつかり、そこで尽きる。その道は、均等に風景を切り開き、遠近の連なりの中に建物や果樹園を配置し、いくつかの道と偶然のように交わることで孤独を埋めている。
その道をいくつもの人生が通り過ぎた。それらの人生のわだかまりや分岐点や廃物置き場、それが肉体だ。肉体の痕跡が、肉体の落とした機能が、肉体の闇夜が、その道に散り敷かれている。通学する小学生の、未来を操作することも知らない制服の下の裸体。帰省する自動車を運転する会社員の、死の予期を啜り続けている下腹の出た体躯。買い物に出かける浪人生の、変形を繰り返した希望によって日々更新される肉体。
論理的に絶望した。じっくりと満ちてくる疲労があったわけでもなく、人生を重々しく吸引し続けた夢が砕けたわけでもなく、生活の端々までを整頓していた愛を失ったわけでもなかった。結晶と結晶とが衝突し、互いに砕けて無数の争い合う小結晶を生むように、論理と論理が互いを映し出すとき、それぞれに内在する回路が、革命軍が形成されるように、微妙に紛糾していったのだ。
不動の苛立ちとして、私の毛筋や視線の流れを常に上方へととがらせ続けた学問。開かれすぎた方向として、私の皮質を絶えず洗いまた汚し、私の誇るべき恥となった芸術。流れる孤島として、私の湿った住み方を空間のひらめきとして示した生活。それらすべての価値を、固定された矢印みたいに、私は論理的に否定することができた。
だが、あらゆる価値を疑っているとき、それでも確かに存在しているのは私の肉体だった。それは晴れ渡った空のように不滅だった。肉体の価値も疑うことはできる、だが価値云々とは違う次元に、端的に肉体は存在し、私は存在した。私の論理的な絶望と、私の肉体とは、決して交わらない二つの宇宙に厳然として存在した。