あなた=?
「逃げた先にあるのは…」
「では、大臣。いえ新しい王、この件は……」
静寂な謁見の間に木霊していた男性の声を遮ったのは謁見の間と外を繋ぐ扉を開けた音だった。
「副大臣。この件は……、続きは何ですか?」
「レグルス……王子」
王座に座っている大臣は低い声を出した。
「もう一度聞く。さっきの続きは……?」
レグルスは出入り口からゆっくりと王座に近づいた。
シレーヌも同じように王座へと近づく。
「国民から話しは聞いている。税を上げる? 給料を下げる? なめるなよ。反逆者ども」
レグルスは声を低くし、そして王座の前にいる大臣を見上げると睨みつけた。
「罪を償いたければ今すぐ俺の下につけ。そして――」
「――何を言っている王子の偽物めが」
今までレグルスの言葉に反論さえもしなかった大臣が大声をだした。「騙されるな! 奴は王子の偽物だ!」
「な、何を?」
「反論するのか? だったら王家の紋章を見せてみろ」
大臣は王家の紋章を渡せと言うかのように右手を差し出した。
「王家の…紋章……」
レグルスは困ったかのようにシレーヌを見た。
シレーヌは腕を組んでレグルスの後に立っていたが口を開いた。
「どうした?」
「……まさか、聞かれるとは思ってなかったから聞かなかったが、お前さ金色の懐中時計、屋敷に置いておかなかったか?」
「……今まで忘れていた」
レグルスは少しの間を空けた後、溜め息をついた。
「それだぞ、王家の紋章」
シレーヌはゆっくりと視線をレグルスから遠ざけた。
「スマン。でも屋敷出るときに気づけ、バカ」
「バカって何だよ。バカって」
「は? バカはバカだろ!」
シレーヌは再びレグルスのほうを向くと一歩レグルスに近づいた。
同じようにレグルスも一歩シレーヌに近づく。
「どうやら、紋章は無いようだな」
シレーヌとレグルスは同時に声の主、大臣の方向を睨みつけた。そして思い出したかのようにシレーヌはレグルスから一歩離れると大臣に向かって口を開いた。
「大臣、少しお時間さえ貰えれば紋章を取ってくるのですが」
「どうせ、その間に逃げるのだろ?」
シレーヌはゆっくりと目を閉じると長い溜め息をついた。そして再び目を開けたときには大臣に向けて笑みを見せていた。
「そうですか……。じゃあ――」
シレーヌは笑みを消した。
「逃げる!」