あなた=?
「迷惑などではない」
シレーヌはベッド脇にある椅子に座りながらも一冊の本を見ていた。
「……寝たふりとはいい度胸だな」
シレーヌは音をたてて本を閉じるとベッドで寝ている人物を見た。
「さっさと起きろ、レグルス」
シレーヌは少し腰を上げるとベッドで寝ている人物、レグルスの頬をつねった。
「っ! い、痛いから離せ! 寝たふりをして悪かった!」
「起きればいいんだ。起きれば」
シレーヌは溜め息をつくと再び椅子に座り直した。
「……今、何時?」
「昼の一時半過ぎ」
レグルスはぼんやりとしていたがゆっくりと窓の外を見た。
そこには海が広がっていた。
「……何が、起こったんだ?」
「簡単に言えば海に落ちた」
レグルスの動きが止まった。そして溜め息をつくと手で顔を隠し、何かを考え始めた。
「……嵐か?」
「正解。嵐に巻き込まれて海に落ちた」
「おまえも?」
シレーヌは足を組むと椅子の背もたれにもたれた。
「命の恩人にそれはないだろ」
「うん、助かった。ありがとう」
シレーヌはレグルスの棒読みの言葉に眉をひそめた。
「ここはどこだ?」
「私の家の別荘。城からは結構離れているわね」
「……船から落ちて、何日経った?」
「五日」
レグルスは小声でシレーヌの言葉を繰り返していたがすぐに起き上がった。
「五日!」
「いきなり動くな! バカ!」
シレーヌはベッドから立ち上がったレグルスに近づいた。
「すぐに城に戻る」
「は?」
シレーヌは廊下に出て行く扉に歩いて行くレグルスの腕を掴むとレグルスは振り向いた。
「話している暇はない。ひとまず城に――」
「――わかった。急いで城に行くんだな」
レグルスは振り向きながらも頷いた。
シレーヌは何かを考えたあと、レグルスが開けようとした扉に手をかけ、開けた。
「レグルス、使用人に簡単な食事を用意させるから食べとけ」
「何を言って――」
「馬で走っても丸二日はかかるぞ。食わんと倒れる。こっちが迷惑だ」
それだけを言うとシレーヌはどこかに歩いて行った。
「……あいつ本当に女かよ?」