あなた=?
「これは嫌な夢」
「王はお元気ですか? 王子」
「あぁ、元気だよ。というか」
賑わっている船の中で王子は一度言葉を止めた。
「……いつまで猫を被っているつもりだ?」
言葉を続けた王子の言葉はとても低かった。
「あはは。その言葉をそっくりお返ししてもよろしいでしょうか? 王子」
シレーヌも同じように最後の言葉だけ声を低くして言った。
二人して笑いあっていたが同時に止まると二人して溜め息をはいた。
シレーヌは船の縁に手をかけ、王子の表情にはさっきまであった笑顔は消えていた。
「何でこんな事しないといけないのかな……面倒」
「……面倒ならそこら辺にいる女と付き合え。そうすればこんな事しなくてもすむぞ。レグルス」
シレーヌは睨みつけるように王子、レグルスを見るとレグルスは露骨に嫌そうな顔をした。
シレーヌは短い溜め息をはくと海を見た。
「おい、レグルス」
「なんだ?」
レグルスも同じようにシレーヌが見ている海の方向を見た。
「今日の海を見てどう思う?」
「……静かだな」
シレーヌは面倒くさそうな顔をしながらも一つの岩場を指さした。
「まぁ、確かに静かだな。そうだな、あそこの岩場を見ろ」
「岩場?」
シレーヌが指さした岩場をレグルスが目を細めてみた。
「鳥が一匹もいないだろ?」
「確かにな。だがそれをどうした?」
「鳥って言うのはすばらしい生き物だぞ。鳥がいない、イコール、海が荒れる。と言う式が成り立つ」
レグルスは言葉を失ったかのように何も喋らなかった。
「しかも、今日は何の日か知っているか?」
「はぁ?」
シレーヌはポケットに入っている時計を取り出して時間を見た。
「あぁ、後一分も無いな。レグルス。何かに掴まっとけ」
「どういうことだ?」
「……私の気が向いたら後で教えてやっ――!」
そのとき船が大きく揺れた。