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レグルスの思い出


 亡くなった祖父と俺が話した回数は数えるぐらいしかないと思う。寝たきりの祖父。それでも体調がいいと体を起こし、俺と話をしてくれた。優しい祖父。
 たぶん俺は祖父を尊敬していた。
 祖父の父。つまり俺の曾祖父が王だった頃の時代はすごい物だったらしい。
 独裁政治。と言えばいいのか。しかしそんな曾祖父が病死すると王の座は祖父に移った。
 王の座が祖父の時代に移ると祖父はすべての政治の仕組みを変えた。
 国税を下げ、給料を上げ、祖父は国民を一番に考えた。
 誰からも愛される祖父は一度だけ昔の話をしてくれた。
 まだ、祖父が王子だったときの話。
 祖父は一度だけ船から海に落ちた事があった。そんな祖父を助けたのは女の人だった。
 海の中でぼんやりとした意識の中で見たのは女の人だったらしい。
 そして意識を取り戻した浜辺で最初に見た人は女性だった。
 その女性は隣の王国の王女だった。そして祖父の中で一つの仮説が立った。
 もしかしてこの女性が自分を助けてくれた女の人では。
 二人の結婚はすぐに決まった。でも祖父は何か違和感を覚えた。何かが違うと……。
 そんな祖父の結婚式の一週間前、ほぼ日課になっていた浜辺にいた。
 そこで倒れていた一人の少女を助けた。
 その少女は話すことは出来ないけども明るい少女だったらしい。
 祖父はその少女と話すのがとても楽しかったとも言っていた。
 それでも自分を助けてくれた女性を裏切ることは出来なかった。そして結婚式を船の上で挙げ、そのまま新婚旅行に行くことになった。
 珍しく少女はそれに同行した。
 結婚式を挙げた次の朝、少女は姿を消した。同時に自分の寝室にナイフを残して。
 祖父は思った。少女はきっと自分を殺すために自分に近づいたのだと。
 そんな祖父はあることを思い出した。
暗い部屋でナイフを持った少女。少女は泣きそうだった。そして手からナイフを落とすと口だけ動かし何かを伝えようとしていたがすぐに消えていった少女。
夢だと思っていた事は現実だった。
祖父は最後に少女が何を伝えたかったのかどんな口の動かしかただったかを考えた。
『ごめんなさい……。最後まで気づいて貰えなかった私が悪かったの。あの女性の人と幸せに生きてね』
 祖父はやっと気づいた。少女が自分を助けてくれた女の人だと。
 しかし少女は消えていた。何処を探しても見つからなかった。
 祖父は結婚を取りやめようかと悩んだが踏みとどまった。
『あの女性の人と幸せに生きてね』
 それが少女の、自分を助けてくれた女の人の最後の願いならば叶えてあげなければ。
 祖父は娘と結婚して幸せに暮らした。
 最後に俺が祖父に問いかけた。
「その少女はどんな人だったの? まだ好きなの?」
祖父は笑って答えた。
「とても明るい人だったよ。私が最も愛した女性であり、そして

人魚だった」

と……。



作品名:あなた=? 作家名:古月 零沙