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地球の眠り

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して)。二人は半分ほど体を透明にさせて、涙を流しているように見えた。僕
と同化している中年の男性は、どうやら息を引き取ったらしい。僕は彼らに対
する嫌悪感に支配されていたが、中年の男性の存在にも胸が引っ掛かっていた。

「僕を起こしてくれよ」僕は彼らに怒りを込めて命令した。すると二人は軽く
頷いて、両腕に力が入らない僕の体を起こした。胸の奥には、まだ中年の男性
への嫌悪感が引っ掛かっていた。彼らは僕の両腕を肩に担ぎながら、君が座っ
ていた向こう側の木の根元へ行き、中心に座らせた。僕は心のもやもやがしつ
こく居座って消えないまま、キラキラと輝く湖面を見ていた。

「何故君達が僕の夢に出てくるのか分からない」再度僕は疑問に思っているこ
とを話した。

「フジが僕達と末当は仲良くしたかったのに、救いたかったのに、僕達がそれ
を理解できなかったからだよ」と死んだ.年は諭すように優しい口調で言った。

「僕がそのことを悔やんでいるとでもいうのかい?」僕は怒って反論した。

「藤川の夢に出てくるってことは、.だにそのことに対して藤川が可能性を捨
てきっていないからじゃないのかな?」と命はあるが青白くなった.年は言っ
た。

「じゃあどうすればいいんだよ?」僕は青い.年を眼力で殺すように睨んで尋
ねた。彼はこの森の空気の色と湖面の色にそっくりだった。

「現実で、実際に俺達に会って、笑い話でもすればいいんじゃないのかな?」

「僕はもう生きることを捨てたんだ。大人になることが嫌だったから。しかも
もう現実では僕が飛び降り自殺したことが君達にも知り渡っていると思うから、
きっと僕と会っても自殺したことで僕を嘲笑するだろう。じゃなければ仮に笑
わないとしても、心を閉ざした昔の僕の印象をそのまま思い出して、無責任な
言葉でも口にするかに決まっているさ。もしくは僕に会おうとする気が無いか
だ」


「フジのことは笑顔で迎えるに決まっているさ。あっ、でも僕はもう死んでい
るか…」死んだ.年は訂正した。「でも、此奴なら、フジに会ってくれるかも
しれないよ。飛び降り自殺したことなんて、此奴の耳には届いてないよ」

「僕はずっと植物状態になることを望んでいるんだ」と僕は言った。「そうす
れば、外見は大人になってしまうけれど、内面は成長しないで済む。その間に、
不変の夢の世界で、永遠を探し続けるんだ。現実には永遠なんてもの、無いだ
ろう? 植物状態なら、誰よりも沢山の時間、夢を見られる。始めは死んだ方
がましだ、と考えていたけど、苦手なものを除けば、夢の世界ほど素晴らしい
所は無いよ。君達だって、今じゃもう僕よりも下の関係に位置しているんだか
ら。夢の世界では、いかにレベルの高い精神力を持っているかが重要になって
くるんだ。僕は君達との会話で、絶対的な力を手に入れた。現実でも君達のこ
とを卑下していたけれど、夢の世界でも同じように君達を見下し、話を聞いて
いる内に、自信がついたんだ。だから、夢を変える力は僕には無いけれど、君
達をこの世界から抹消することぐらいはできるんだ。そして、再び僕は心の中
の.女を見つけ、彼女と性交をしようと思う。そしていつか現実世界の命が途
絶えるまで、彼女とこの素晴らしい世界を満喫するつもりだ。君達がいなくな
れば、この両腕も動くようになるんだ。僕の中に突然押し寄せてきた性欲。君
達はもう存在する価値は無い。だから、消えてくれ」

「一言だけ言わせて欲しいんだけど」死んだ.年は鈍く光る湖を見ながら呟い
た。「永遠なんて、夢の世界にも何処にも無いよ」

「何だって?」僕は死んだ.年の発した言葉に無意識に反応した。

「何処にもない。僕達を消すのは今のフジにとって簡単なことだろうけど、僕
達はただ、フジの脳の中へ還っていくだけなんだ。また、いつ何時、フジの目
の前に現れるか分からない。それはフジとその彼女がセックスをしている時か
もしれないし、森から抜け出して、限りなく現実に近い恐怖に満ちた夢の世界
で、今度は殺人鬼として現れるかもしれない。それは当の僕達にも分からない。
知っているのは、この夢を創り出したフジの脳だけさ。だけど脳がこれから先、
予定通りに夢を進めるとは限らない。だから、フジが僕達よりもいくら優位な
立場にいると言っても、そんなものは、この夢を創った脳によっていくらでも
変わってしまうんだ。だから、そんなに傲慢になっていたら、脳の機嫌を損ね
て、全く違う世界へ飛ばされるかもしれないよ」

「この世界こそ、僕の平安の場所なんだ」僕は彼らに言った。「それは、脳に
とっても、同じ意味を成すものなんだ。だから脳が僕のことを裏切ることは決
して無いと断言できる。ほら、さっきから君達の体がどんどん透けていってい
るだろう? それは、僕や脳が君達への復讐を済ませたからだよ。まぁ、どっ
ちにしろ、君達はもう用無しという訳さ。何故か名残惜しい感情が涙腺をしき


りに刺激しているんだけど、それは君達ともう一生会えないからかもしれない。
さぁ、僕の…僕の脳へ還ってくれ!! 今度は、僕が、脳の夢を支配するんだ。
現実の脳にだって、いつか僕をコントロールできない時がやって来るはずだ。
脳は万能ではないのだから。その隙を狙って、僕は脳に恐怖を伝染させ、好き
勝手にさせないようにしてやる。もしかしたら、僕が脳にとって君達のように
最大のトラウマになり、ずっと苦しませ続け、僕の言いなりにすることができ
るかもしれない。そうすれば、きっと…」

その時だった。突然激しい地震が起きたかと思うと、両腕に力が入らない僕
は草むらに倒れて、木の枝から葉が幾つも体の上に落ちて来た。地震は僕に恐
怖が生まれるまで続いた。殆ど透明に近い二人の.年は、微動だにせず、葉は
彼らの体を通り抜けて、地面に降り積もった。言いようのない恐怖感が僕の心
を支配し、.年二人を見上げると、まるで凍り付いたように湖に視線を向けて
いた。彼らはいくら経っても.しも動かなかった。どうやら呼吸もしていない
ようだった。湖面の僅かな波紋が静止していた。両腕に力が入るようになって、
起き上がってみると、地面付近の温度と頬に感じる空気が異質のものであるの
を感じた。巨人の頭が雲を飛び抜けたように。

「…地球が眠りに就いたんだよ」

遙か頭上から声がした。

「誰だ?」

僕は漠然と夜空に向かって問い掛けた。

「僕はこの夢を見ている者だよ」と僕によく似た声が返ってきた。

「この夢を見ている? どういうことだ?」

「そうさ。でもそれとは別に現実でこの夢をできるだけ忠実に再現し、物語と
して執筆しているつもりだけれどね」彼は.し含み笑いを込めて答えた。

「地球が眠りに就いた? それはどういうことだ?」僕は.し苛立って尋ねた。

「地球が大人になることを止めたのさ」彼はいとも軽々しく答えた。「君と同
じようにね。君のせいでそうなったと言っても過言ではないよ」

「どうして僕が地球と関係があるんだ? 僕にそんな力があるとでも言うの
か?」
作品名:地球の眠り 作家名:丸山雅史