顔 下巻
⑯三日目 #3
アイツは・・新世界の近くの安ホテルの部屋に、ふらりと現われたんだ。
ノックをしてさ。てっきりルームサービスだとばかり思って軽い気持ちで
ドアを開けたら。力づくで押し入ってきやがったんだ。
そのときアイツは、シルクハットを被り、タキシード姿で。
マントまでつけて、まるで売れない手品師みたいな井手達で、
頬がこけた皺くちゃな顔をした長身の痩せ男だった。
骸骨にでかいギョロ目をつけたような。
オレはさ。とっさに抵抗したんだ。
だが、アイツの妙な力が、オレのさ、体をベッドの上に弾き飛ばしたんだ。
金縛りってヤツ?体が動かないんだ。意識はハッキリしてるのにさ。
全身、冷や汗かいた。
声は出ていないのに、オレはさ。喋っていたんだ。アイツにさ。
「誰だ!」と。
アイツは声にならないオレの声にさ。軽く会釈して微笑みながら答えたんだ。
「名を名乗るようなものじゃない。」
いったいなんなんだ、お前は!
「質問するのはキミじゃない。一之瀬克也クン。」
オレはさ。正直、心臓まで凍りついた。
オレの顔は、そのとき二之宮のブオトコ面だったから。
なんで、オレのさ。名前ぇ、知ってんの?って。