顔 下巻
⑭三日目 #1
その日は、朝から一之瀬は拘束衣を着用させられていた。
後ろ手に拘束された上、上腕部もベルトで拘束されていた。
逃走の危険性はないものの、両足首、両膝もベルトでしっかりと
拘束されていた。
「昨日の小山への暴行と、その後の独房での自傷行為に対応した。」
と大川と小山は説明された。
昨夜半、一之瀬は、全身を腕といわず脚といわず掻き毟り
血塗れになっていたのを当直の警官に発見された、というのだ。
一之瀬は、小山を見ると「おはよう」と挨拶をし、嘲った笑いを浮かべた。
小山は、激怒し、平手を加えた。
「なめんじゃねえぞ、この変態野郎!」
大川が小山を宥めると、一之瀬は卑猥に舌を震わせて見せた。
また、あんたたちに会えて、うれしいよ。
昨日までだったんだろ、あんたら。
あんたたちじゃなければ、オレ、オレもさ。
また喋る気もなかったんだ。
大川は、やる気の無い笑いを浮かべて見せた。
「あぁ、そういわれると、嬉しいよ。」
大川は、一之瀬の前に座ると、マジックミラーの方を眺めると。
「どうして、俺たちが相手だと話す気になった?」
大川は笑顔を浮かべて見せた。
一之瀬は、不思議な顔をした。
声を出さずに“エッ?”と顔をかしげるように傾けた。
そりゃぁ、誤解だな。
別にあんたたちだから・・喋る気になったわけじゃないさ。
さっきのは・・リップ・サービスさ。
ただ・・。
「ただ・・なんだ?」
一之瀬は、大川の顔に視線を向けて
珍しくなにか寂しそうな表情を浮かべたが
何も喋らなかった。