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釘の靴

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はぐれて遭難しちゃったの? ねぇ? それに…ワンピース一枚で寒くな
い? さっきまでメチャクチャ激しい.降ってたしさ…あれ君、体全然濡れて
ないじゃん? どうして?」

「ちょっと初対面のくせして質問し過ぎじゃないの? あんた生意気よ」と女
の子の口調は少しイライラを含んで言った。「いい? 一度であんたの質問全
部に答えるから聞き逃さないでね。分かった?

……私は長時間キスすることに慣れていないから。そのせいで今ちょっと体
のところどころが痛いの。私は今まで一度も風邪なんて引いたことなんてない。
私は気がついたときからずっとここに独りでいて、ここから一歩も離れたこと
がない。遭難なんてものは生まれてこのかたもちろんしたことない。寒さだっ
てこれっぽっちも感じない。こんな薄着でも。ちなみに私の座っている場所は
大きな木の真下。だから.に全然当たらないに決まってるじゃない。今は真っ
暗だからここに巨木が立っていることが分からないだけで。別に私自身は体が
濡れちゃっても平気なんだけれど。けど私は色々あってここを一歩も動くこと
ができないからまぁこの大木があと何百年かして朽ち果てて倒れるか、人間の
手によって伐採されるかすれば、思う存分.に打たれることもできちゃうんだ
けども」

頭の中とてっぺんにはクエスチョンマークが何処かの大都市の朝市の人混
みの如く慌ただしく溢れかえっていた。しばらく長い沈黙が続いた。近くで枯
れ葉の舞い落ちる音が二、三回した。彼女の艶やかな髪の毛がひんやりとした
風にさらりと揺れた。…趣。「あの…、あのさ…」ごくりと唾を飲み込んだ。
「…今言った話、全部冗談でしょ?」


彼女は目をまん丸くして驚いた。

「? まさか」

「末当?」

「末当」

「あのさ、君、自分でおかしなこと言ってること分からない?」女の子の表情
を見てほんのちょっぴりだけにやけてしまった。「ホント、君、おかしなこと
言ってるよ? そんなことあるわけないじゃない? こんな時に変な悪ふざ
けはやめてよ。ハハハ……」

「…バカはそっちのほう」声のトーンがさっきより幾らか格段に上がり、女の
子はむっとした顔でこう切り返してきた。「そんなに私のことバカにするんな
らいくらでもどうぞ。あんたの気が済むまで何度でも。私、そういうのにはも
う慣れっこなんだから。今まで数えることができないくらい、あんたのように
この山で遭難した人間が道に迷って私のところにやって来ては私に命乞いを
して、私は優しいからいちおうそいつらの一命を取り留めてあげてきたけど、
具合がよくなった途端態度が急変してきなりしつこく私のことを聞きたがっ
てきて、私がさっきあんたに言ったみたいに事情を簡.に説明してあげると、
大抵は顔の血がさっと引いて顔が真っ青になって腰が砕けたみたいな格好で
一目散に私の元から逃げていくんだけど、中には私のことをさんざんバカにし
たり、気味悪がったり、気絶したり、すごく疑わしそうな目で私の胸をじっと
睨みつけたり、私のことを?君は私達と同類の人間だ?なんて発狂しながらピ
ストルで頭や口の中を撃ち抜いたり、そこの太い木の枝に頑丈そうなロープを
巻いて足をバタバタさせて体の中の汚物をベチャベチャ地面にこぼして首を
吊って死んでいった人もたくさん見てきたし、挙げ句の果てにはスケベな顔し
て幼児体型に対して異常な性欲の興奮を覚えて私の体に汚らしい手でペタペ
タペタペタ触ってきたり、目の前に立って突然服を脱いで裸になって、?ほら、
イイ子だから私のモノを丁寧にペロペロと舐めるんだ?とかなんとか言って、
私の顔に腰を突き出してくるヘンタイ共もたくさんここに迷い込んできたけ
れど、はっきり言ってどいつもこいつも末当に大バカ者! どうして私の話を
少しでも信じようとしないの? 愚か。ホントに愚か者よ! そしてとっても
惨め。そんなやつらはこんなちっぽけな山なんかじゃなくって、もっともっと
別の他の場所で遭難したり死んでしまえばいい!……あぁああもうホントに
腹が立つ…あんた達、ホントに人間のクズよ…どうして? 私の話に現実性が
微塵たりとも感じられないからなの? …あぁ分からない! 分からない…
教えて、お願い! あんたもまたアイツらと同じ正真正銘のバカに違いないだ
ろうけれど、ホントにあんたは私の説明じゃなにも理解できなかったの? 納
得できないの? …ねぇ、どうにか言って! 教えてよ!!!」

急に辺りが少し明るくなった。妖しく輝く月の光。かぐや姫は話を終えると
澄み切った夜空をぼんやりと眺め、いつの間にか姿を現していたキラキラと光
る無数の星々と一際美しく輝いて見える終秋の風情のある満月と苦悩と失望
感と時の流れが、彼女に残った癒されない傷跡と目の前にいる哀れな遭難少年


に心を激しく掻き乱されてさめざめとお泣きになってしまった。…Beautiful.
ビューティー・ガール。どうしようもない胸の高鳴りは満天の夜空を飛び越
えてその先に透けて見える宇宙の彼方へと魔女のほうきのようにキラキラと
流れていった。ひゅるるるるるん…どぼん。…ホールインワン。その光景があ
まりにも美しかったものだから、彼女と今まで何を話していたかすっかり忘れ
てしまった。だってすっごく可愛いんだもの。クラスの友達にも紹介してあげ
たいくらいとってもかわいかった。うん、ホントに。しばらく経ってから女の
子は自分が彼女にうっとりしているのに気がついたらしく、頬を白い手の平で
パチン、と叩き、その音は微かな月の光でさえ届いていない闇の森奥深くへと
パチン…パチン…パチン…パチン…と卓球台でリズム良くピンポンの球を弾
くみたいに軽やかに反響していった。そのラリーが聞こえてくる方向へずっと
耳を澄ませていた。それはあんまり美しい響きとは思えなかった。

「…なんか私に文句あんの?」と女の子はちょっぴり怒りを持続させた表情で
答えた。「わたしはあんたに質問している最中。ケンカを売るのは後にしてく
れない?」

「い、いや、涙がさぁ…」慌てて「色酔い」を覚ましてから首を横に振って言
った。「…あ、あ、あの、君のその涙がとっても綺麗だったからさぁ、つ、つ、
つい見とれてしまって…?うわぁ、涙ってこんなにも美しいものだったなんて
今まで知らなかった?みたいなさ…」

「そんな言い訳はどうでもいいからさっきの話の感想早く私に聞かせてよ」彼
女はすっかり心を見抜いてしまっているようだった。

「うーん…」

と唸って僕はすっかり困ってしまった。頭の中で複雑に絡まり合っているゼ
リー状もやもやを順番に一個一個引っ張り出していく。

「うーん…、まず始めに君の話を聞いて感じたことは、てっきり君は冗談を言
ってるもんだとばかり思ってたってことなんだ…あ、あ、あの、何も言い訳す
るつもりじゃないんだけど……だ、だ、だって、同じくらいの年齢の女の子が
この時期こんな時間帯にこんな深い山中に一人でいること自体、普通なら有り
得ない話だよ! …?どうしてこんな暗くて寒くて怖くて全く人気のないとこ
作品名:釘の靴 作家名:丸山雅史