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釘の靴

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メロなこと、その男の子と、学年一勉強の成績が良くって英会話スクールにも


通っている他のクラスの子のどっちが多く英.語を知っているか勝負しよう
と、お昼休みに教室の黒板に書き出してその試合を行ったこと、もちろん転校
生が楽勝勝ちをしてしまってその勝負に負けた子はその日のうちにすぐさま
英会話スクールを辞めてしまったこと、その子の母親が学校役員の一番偉い人
で、そんな勝負を企画した児童を注意して下さいと校長に言いつけて、次の日
の放課後「ポコペン事件」でお世話になった、あのみんなに忘れ去られた空き
教室で、

「もうそんなことは絶対いたしません。」

と、四百字詰原稿用紙一枚分びっしりと反省文を書かされたこと、一緒に閉
じこめられて、全て英語で反省文を書き、一番乗りで終わった転校生とすぐに
仲良しになったこと、今では彼と一番話が合う親友になったこと、彼も今回の
山登りに誘ったんだけどあいにく彼はこの連休で一旦外国に戻らなければな
らなくて、みんなもとっても残念がっていたこと、そしてこの山でみんなとは
ぐれてから彼女と会うまでに様々な奇怪な体験をしたこと…。

…などなど、今、胸の中でシャボン玉みたいに沸き立つような思い出達を包
み隠さず彼女に教えてあげた。普通の人なら全然興味も持たないような日常茶
飯事的な雑談でも、彼女は美しすぎる瞳を一段とキラキラと、昨夜見たあの素
敵な夜空の星々のように輝かせてじっと黙って聞いていた。ただ.に涙の膜に
よる光の反射で眼にそう映っただけのことなのかもしれない。

けどそんなくだらない話を聞いて彼女は末気でお腹を押さえながら笑って
くれたりもした。かぐや姫の笑顔を見ると気分がとても和んだ。辺りの力尽き
た草木はもちろんのこと、足元で何やらそわそわして落ち着きがない昆虫達や、
彼女を取り囲むようにしてぐるっと高くそびえている蟻塚のような生き物の
死骸、非生物の残骸の山を崩しては食べられそうな腐った肉やら枯れた樹皮・
枝・葉っぱなどを掘り起こし、休む暇なく体内に取り込み続けている動物達ま
でもが僕らの笑い声に賛同してクスクスクス、ゲラゲラゲラと笑っているよう
に思えた。僕らは実に愉快な時をたっぷりと満喫した。





刻々と、彼女の指し示す.来がタン、タン、タン…とはっきりした足音を立
てて近づいてきているような気がした。クリーム色の太陽が秋風に揺られてメ
ラメラと、自らの軌跡を必要以上に焦がし続けていた。それに合わせて気温も
また幾分上昇していった。残された僅かな時間を司る神様はどうやら二人に要
らぬ気を使ってくれたみたいで、いつもの二倍、いやそれ以上に腕時計の進み
具合のペースを遅らせてくれた。それは.に気のせいなのかもしれない。でも
そう思えたおかげでもっと仲良しになり、もっと悲しくなれた。どちらにして
も彼に、何度も何度も末当にどうもありがとうございますと言いたかった。ホ
ントに末当に感謝した。そして、生きている限りあるあらゆる万物は全て絶え
間ない変化を止めようとはしなかった。




?永遠?と

?死?と

?過去?と

?無?以外を除いては。









持ちうる限りの全ての話を女の子に聞かせ終えたあと、時刻を見た。

午前十一時十八分。

ふぅと溜め息をついた。彼女の睫毛は真珠貝のように瞳を閉じていた。まる
で眠っているみたいに見えた。女の子の前に散らかっているボロボロに破れた
お菓子袋や空の水筒やスポーツドリンクの容器を半透明のゴミ袋にまとめ、リ
ュックの中にしまい込んだ。そして地面に腰を降ろした。つい先程まで足元で
うろちょろしていた昆虫や動物達はいつの間にか姿を消していた。きっとさっ
きの話に笑い疲れて昼寝でもしてるのだろう。

瞼を眼球に被せた。風のささやきやこそこそ話が耳元に入ってきた。それは
とっても興味深い話のように聞こえた。しかしそれ以前に彼らの話す言語が理
解できなかった。



?…そよ、そよ、そよそよそよ……。?



一体何を言っているのかさっぱり分からなかった。けどしばらくするとそん
なことはどうでもよくなった。

…ちょっと残念だったけれど。





ふいに「おしっこ」がしたくて堪らなくなった。そう言えば昨日の夜から一
度も排便をしていなかった。

…無理もない。

この遭難中、.に打たれて高熱を出して肺炎にかかってしまい体はラスクの
ようにパサパサ、彼女の両足にショックを受けて何度も何度も嘔吐をして胃は
空っぽ……軽い脱水症状になって余分な水分などこれっぽっちも無かったの
だから小便など出ないのは当然と言えば当然だった。

立ち上がって彼女の視界に入らない茂みの中で「おしっこ」をしながらぼぉ
ー……っと遠くの景色を眺めていると、チョコロールパンのようなはっきりと
した巻きのある、やや灰色がかった真っ直ぐな雲をもの凄く高い空に放して、
好き勝手に遊ばせているそれらの保護者みたいな山頂の背の辺りで突然、



?ピカ、ピカピカピカ、ビカ、ピカピカピカ……。?




と変にリズム良く光ったり消えたりしているのを発見した。それはありとあ
らゆる方向へ何か合図のようなものを送っているみたいに見えた。

おしっこの勢いが少し緩んだ。

眉をひそめた。

おや?

……ひょっとして…。

ふっ、と女の子の言葉を思い出し、とっさに腕時計を外して、そのピカピカ
点滅する方角に向かって太陽の光をキラキラと反射させた。すると一瞬規則的
な光のリズムに乱れが生じて、すっかり消えてしまったかと思うと、しばらく
して今度は、



?ピカビカ、ピカ?(そこにいるのは、だれ?)?



と、まるで遙か太陽系の彼方から.答を求めている宇宙人のような合図を送
ってきたのですかさず、



?キラ、キラ、キラ。(私は、迷子の、子猫ちゃんです。)?



と、尿を微妙に葉っぱの上やら草むらの地面に垂れ流したまま腕を伸ばして
ゆっくり山頂に信号を伝えた。しかしその返事は向こうから返っては来なかっ
た。

「なんだ…ただの錯覚かぁ…。」と諦めて排便の続きを末格的に再開しようと
しかけたその時、突然目の前で何百発ものフラッシュを一斉にたかれたような
眩しい輝きに包まれた。 目が眩み、腕時計を落とし、両手で顔を覆い、ズボ
ンにおしっこが飛び散り、思わず瞳を閉じた。末当に失明したかと思った。し
ばらくして瞼の裏側の暗闇に平穏が戻ってから、目を開けて両方の掌でサンバ
イザーみたいなものをつくり、もう一度山頂付近に目を凝らしてじっと眺めて
みた。異様に横に長い白い旗が三、四末、生温い風に揺られて大きく空にたな
びいていた。

小便の出が止まった。

そしてまたズボンに黄色い液体が滴り落ちた。

はっと息を飲んだ。

「…あ、あれは救助隊だ……ぼ、僕を捜しに来てくれたんだ…や、やった、や
った……ぼ、ぼ、ぼ、僕はた、助かるんだ!!」ズボンのチャックを閉めるの
作品名:釘の靴 作家名:丸山雅史