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釘の靴

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て彼女からワンピースを受け取ったの。すると彼女はにっこり笑って、

?いくら何でも年頃のかわいい女の子が素っ裸じゃいけないわよねぇー。?

なんて言って、人差し指を自分の乳房に向けてクイッ、クイッと動かして私
に着てみなさいよ、って合図した……実はそれまでの間、ずっと私…裸だった
の。別に暑さとか寒さとかへっちゃらだったから気にしなかったんだけど……
それでとにかく彼女に従ってワンピースに袖を通してみてみると、全裸の彼女
は目を輝かせてパチパチと拍手し始めて、

?うわぁー、やっぱそういう素敵なワンピースはそれに見合った綺麗なコが


着ないと冴えないわねぇー。とっても似合ってるわ。私もあと十歳若かったら
そういう服、堂々と着て街中とか何処へでも歩けちゃうんだけどね…あぁ、そ
うそう、そのワンピース、あなたにあげるわ。もう私にはそんなものは必要な
いの。これからこの子と一緒に崖から飛び降りて死のうと思ってるから。?

って言って私に軽くウィンクすると、クルクルとうねった黒髪の毛をいじり
ながら私の元を離れて何処かへ行こうとしていたから、私は咄嗟に彼女を呼び
止めてこう尋ねたわ。 ?どうして自殺するのに服が要らないの? それとさ
っき私の耳元で囁いていた気味の悪い話は一体何なの??

ってね……今考えてみるとずっごくバカみたいな質問なんだけど…すると
彼女はぴたっ、と歩みを止めて私の方を向いてうつむき加減でぼそぼそっ、と
こう呟いたの。

?…“シ、シロ”は駄目なのよ、“シロ”は……し、叱られちゃうのよ、“カ、
カレ”に……あぁ、ううん、な、なんでもない……あ、あと、さっきあなたに
教えてあげたあの話のこと、すっかり忘れちゃってくれない? …あ、あれは
ただ.にこんな人里離れた山奥にかわいらしい女の子が独りで何やってるん
だろう? ちょっと驚かしちゃえ、みたいな感じでふざけてやってみただけだ
からさ、気にしなくていいのよ、ホ、ホントよ!……じゃあ私、そろそろ行く
からね、元気でね! …バイバイ!…。?

って言って濃い茂みの奥へと消えてっちゃった……私、彼女が茂みの中に入
っていったとき最後にこう思いっきり叫んだんだけど、 ?…ち、ちょっと…
…全然説明になってないじゃない、ね、ねぇ! あ、あんた、その赤ちゃんま
で道連れにする気なの? 止まりなさいよ! ねぇ、止めなさいよ! 止めな
さいったらー!……?

ってね……でも、無理だった。彼女達は私のことを無視してそのまま森の奥
へと消えてしまった…。





…彼女はそれから二度と私の前に姿を現すことはなかった…あの可愛らし
い赤ちゃんもね……それが私の中にある最も印象的な思い出というか…今、現
時点ではこの記憶が最も古いんだけど、これから先ふっ、と何かの拍子やタイ
ミングでもっと古い記憶を思い出すのかもしれないわ。まぁ、そんなところか
な…。」

そう話終えると彼女は戦争で爆撃を受けて滅茶苦茶に傷ついた兵士のよう
にドサッ、と背中にある大木の太い幹によしかかり、遠い東の空を彩る朝焼け
の景色を眺めながら小さな溜め息をついた。

黙っていた。彼女も目を閉じたまま何も喋らなかった。何処かで小鳥がピッ
ピピピピピピ…、と運動会でよく使うホイッスルのような寝起きすぐのだらし
のない体を引き締める鳴き声を発した。

すっかり眠たくなってきていた。彼女の方を見た。かぐや姫の隣には昨夜の
睡魔が青と白の縦縞のパジャマ姿で彼女の肩に頬杖をついて、鼻ちょうちんを


膨らませたりしぼませたりしながらうとうとと気持ち良さそうに眠っていた。
目をパチパチさせた。睡魔はもうそこにはいなかった。ズボンのポケットの中
を手でごそごそと引っ掻き回した。しわくちゃになったペパーミント味の眠気
覚ましガムが二枚入っていた。銀紙を剥がしてそれを勢いよく口の中に放り込
んだ。そしてよくクチャクチャと噛んだ。少しだけ眠気が薄れていったような
気がした。彼女に尋ねた。

「…ガム、いる?」

「もちろん。」

一瞬耳を疑った。「…あれ、君は口に何も入れなくても全然大丈夫な体だっ
たんじゃなかったっけ?」

女の子は眉を少し浮かせて端っこの口元にちょっとした窪みをつくった。
「そう、でもそれはガムじゃない? ガムは特にそれ自体に栄養なんて無いん
だから話は別。」

「眠いの?」

「ただなんとなく口の中をスッキリさせたいだけ。私は眠くなんかない。」

「…ふーん。」と、頷いて長いこと組んでいたあぐらを解き、立ち上がって彼
女に板ガムを差し出した。彼女は軽く睨みつけながらガムを手の平からパシッ、
と音を立てて奪い取り、真っ二つに割って中身を出して口の中に入れた。





しばらくの間もぐもぐと、ガムを噛む互いの音にまったりと聞き入っていた。
彼女はガムを噛み始めてからすぐに、とっても苦そうな表情をした。かぐや姫
にバレないように背中を向けてそっとクスクスと笑った。ガムと朝の空気と
微々たる生物と自分自身の唾液と心地良い沈黙を噛み続けていた。ガムの味が
切れてきた頃に独り言のように女の子に呟いた。

「…さっき君は君にとって、とっても大事な話を僕にしてくれたと思う。」

両手を頭の背に回し、昼寝のポーズをとって目をつぶったまま素敵な顎を美
しく動かしている彼女はその揺れに合わせて微かに頷いた。

「確かにそうみたい。」

ガムの味が薄れてきたらしく、彼女は口から銀紙へ吐き出して、左側にある
茂みにぽーんと投げた。

「…でも、私にワンピースをくれた女の人が言ってたあの話って一体何だった
のかな? あれからずっーっと、今の今まで一生懸命、考えて、考えて、考え
てきたんだけれど、全く理解することができなかった。バカなあなたなら何か
分かるかもしれない。」

頭を振った。「全然。さっぱりに決まってるじゃん。僕だって君の話を聞い
てからずっとそのことについて考えを巡らせていたんだ……けどやっぱりま
るでダメだった。意味不明ことが多すぎるよ。その女の人が言っていた、?カ
レ。?って一体誰のことなんだろう??恋人?とか?夫?とか?フリン相手?
とかのことなのかなぁ?…しかもなんでその人はわざわざ裸になって自殺し


ようと思ったんだろう? それも赤ちゃんまで服を脱がせちゃってさ! 何
か特別な理由とかがあったのかなぁ? …信仰している宗教の掟とか、一風変
わった家訓とか、代々その女性が生まれた地方に伝わる秘密のしきたりとかな
のかなぁ……。」

「さぁ。」と、女の子は不機嫌にもぼぉーっと何か考え事をしているようにも
とれる表情で首を傾げ肩をすぼめ、もう手足も出ないわ、降参、降参よ、とい
う意味を辛うじて表すジェスチャーっぽいジェスチャーを繰り返しした。「そ
ういうことは当の末人に直接聞いたほうがいいかもね。」

思わず吹き出した。「ハハハ……それはそうだけどさぁ、その女の人はそれ
以降君に会いに来ていないんでしょ? その人自らが言ってたように、その人
作品名:釘の靴 作家名:丸山雅史