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ジェスカ ラ フィン

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揃えてもらったから。早口で言ったから完璧に通じていないと思うけど、もう
作業場のほうに行ってもらってスポットライトやら飾り付けやなんやら用意し
ていると思うよ。作業員の人も手伝っているんじゃないかな。後は作業員の人
達が仕事を終えて出て行くのを待つだけさ」

「おぉ、そうか」

ドゥニンの顔がぱぁー、と明るくなった。

「それじゃあもう話はもうやめにして、ソフサラコマ君のショーの前に食事で
も召し上がろうじゃないか? 準備をしているみんなに悪い!」

「そうですか! もうスタッフが設営を始めているんですね!」

ノェップも笑った。初めて白い歯がこぼれた。

「それでは私も下へ戻ってお手伝いをして参ります」

「あぁ。それがいい。食事の支度ができたら給仕を向かわすよ」

「かしこまりました」

「じゃあ僕もちょっと作業場に行ってアドバィスとみんなに今日のショーの.
伝でもしてこようかな!」

ソフサラコマに連れられてノェップは失礼します、と礼を軽くして出て行っ
た。扉が閉まるとこれからショーでソフサラコマが何をするのかという期待感
で部屋が明るく見えた。ドゥニンは組んだ両手にしばらく視線を落としていた。


「では私も事務.に用があるので退.…」

僕は反射的に1歩前に出た。

「あっ…ちょっと待って下さい。まだ聞きたいことが…どうして『ドドルーン
の町』に滞在するのにわざわざ証明書がいるんですか?」

「あぁ。その話ですか。.は昔、盗賊団の一味が町の近くの森にアジトを作っ
て住んでいて、毎夜『ドドルーン』にやって来ては盗みを働いていたことがあ
りましてね」

「そうなんですか?」

「デダロンズ町長の指令で、許可書が発行されるようになって、ようやく被害
が出ないようになったんですがね」

「『ビチュアンゼ』には『ドドルーン』のような許可書は必要ないのですか?」

「必要ありません。北方の『ビチュアンゼ』には『パシキゾーフ』までの高速
道路のICがあって、そっちの警備のほうが厳しいんですね。盗人が1人2人
いたって何も条例なんて変わりませんよ。『ドドルーンの町』には、とある有
名なピアニストがいて、たまに出張でこの地方を出るんです。デダロンズ町長
の娘の婚約婿なんですがね、『ドドルーン』でないと作曲できないと言うんで
す。ですからデダロンズ町長が厳重な警備を町の外に張って、部外者に不審な
者がいないかどうかチェックするんですよ。まぁ、『ドドルーン』を訪れる者
の大半は彼を見にやって来るんですが、人嫌いな彼の代わりにデダロンズ町長
は訪問実を追い払い、『ドドルーン』のはずれにある北の?ハノスマトセの泉
?に小屋を建ててやり、彼は其処で1人作曲をしているのです。『ドドルーン』
の人の中には彼を見世物にしてお金を儲けているのだと非難する者もいます。
が、そういう陰口を叩くと職と住居を剥奪され、『ドドルーンの町』の外に追
い出されてしまうんですよ。盗賊団もデダロンズ町長が話題の為に、裏でその
盗賊団の棟梁にお金を渡して事件を起こさせているという噂もある。彼は『ビ
チュアンゼ』で有名な音楽1家の元に生まれたんですが、両親と兄弟は、まだ
『流通国パシキゾーフ』ができていなかった頃、船による巡業の最中、津波に
飲まれて死んでしまったのです。孤児になった彼は、デダロンズ町長に追われ、
やがて無理やり1人娘と婚約させられたのです。何でも、彼は婚約を断ったら
殺すぞとまで脅迫されたらしいですよ。.だに結婚はしていないようですが、
可哀想なことに、彼は泉の小屋に閉じこもって作曲を続けています。私も、や
はり彼はデダロンズ町長に利用されているとしか思えんのです」

ドゥニンの話でようやく理由が分かった。時は早く過ぎて空に闇を投げかけ
ていた。

「それじゃあ、僕達部外者は、通行書はもらえないということですかね?」


「それはないと思いますよ。私の紹介状があれば必ずや『ドドルーンの町』の
中へ入れると思います。天才ピアニストのために世界的な観光名所となった
『ドドルーンの町』は、何度訪れてもいいものですよ」

「紹介状、もぜひ頂けますよね?」

彼は2回はっきりと頷いた。

「もちろんです。あなた方旅人は悪人ではない。あのソフサラコマ君は口こそ
悪いが性格は賞賛に値するものです。よろしいでしょう、通行書と、町に入る
ための紹介状を明後日の朝までにお渡ししましょう」

「ありがとうございます!」

僕は笑顔になってお辞儀をした。

「では私達もそろそろ食堂に向かいましょうか」

「はい!」

と僕は元気な声を出して僕達2人は部屋を出た。



下へ降りると部屋の向こうからクラシック音楽の良いメロディーが流れてき
た。台所と食堂の間の.接間で若いボーイが蓄音機をゆっくりと回してレコー
ド盤を奏でていた。僕達が入ってくるといらっしゃいませ、と礼儀正しい態度
で迎えてくれた。食事ができるまで座っていようかとドゥニンに言われて、椅
子に腰を降ろしていると、ドゥニンは隣の部屋から女の給仕を呼んであと何分
で食事はできるのか、誰かにノェップを呼んでこいと頼んできてくれと伝えた。

30分ほどパイプを吸っていた彼はレコードを止め、部屋の中をうろうろし
て溜め息をついた。料理の美味しそうな匂いがしてきた。遠くから調理器具が
ぶつかり合う音が聞こえる。暫くぼんやりとしていてふと気がつくと、その音
等がほとんど止んでいて、ドアが開閉し食器や金属が並べられる物音が聞こえ
てきた。

「ちょっと作業場の方へ行ってきてもいいですか?」

と僕は言うと、

「あぁ、構わんよ」

とドゥニンは言った。

「さっき呼んで来いと言った奴は全くあてにならんな。給仕は頼んだ事を忘れ
たのかもしれん。なら、君がソフサラコマ君やノェップや給仕達を呼んできて
くれ」

「えぇ、分かりました。すみません、この袋、ここに置いていってもいいです
か?」

僕は携帯電話の入った布袋を椅子の下に置いて.接間を出た。




屋.の入り口を出て工場の中へ入った。まだ従業員達の作業は終わっていな
いようだった。真っ直ぐ歩いていって左に曲がり、工場の入り口を過ぎて右側
の作業場のドアを開けると、やはりベルトコンベヤはまだ動いていた。作業員
は時間などまるで気にしないとでも言うように、黙々と流れてくる部品を、自
分の決められた役割の分だけ組み立てていた。僕は暫くその様子に見とれてい
た。すると、動くベルトコンベヤとプレスと洗浄の音に紛れてソフサラコマの
声が右の大きなスペースから聞こえてきた。僕はスタッフの集まっている場所
まで歩いた。ノェップも、屋.の玄関を開けてくれたキノストツラもいた。作
業分担するためにグループに分けられた中でリーダー的な存在の作業員も何人
かいた。ソフサラコマはセッティングしてくれたミニステージに立って、あれ
これ途中から聞き始めた人間には分からないような内容の話をしていた。僕は
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史