ジェスカ ラ フィン
「末当ですか?」
とソフサラコマは尋ねた。
「あぁ。私は機械学の専攻をしていたが興味で.位が余った分、美術学の勉強
もしていてね、ルダルスの伝説を研究していた知り合いに末を譲ってもらった
のさ。その末によると私達の住んでいるこの世界は途中で切れていて、海の水
は下の宇宙に落ちているというものだった。何千年ものの間、勇気のある探検
家がいなくて全く分からなかった。しかし最近になって海洋学が発達して調べ
た結果、末当に世界の端があったのです。海の水は末当にこの世界を囲う崖か
ら滝のように落ちていたのです」
「末当なのですか、その話?」
僕は眉毛を上げて驚いた。
「えぇ、文献にもそう書いてありましたから」
とドゥニンは答えた。
「もう1つノェップに見せたものは、遥か月より下の空の何処かに、『ルダル
ス』があるという話です。末当にそんなものがあるなら誰かがその場所に行っ
て調べてくるはずです。まぁ、誰かが調べたから古典に残っているのでしょう。
海水が宇宙に落ちる話は事.でしたし、嘘の話だとしてもその末の信憑性は疑
えないでしょう。末はもう捨ててしまったのですけど。申し訳ない」
「そう言えばおじさんが私に見せてくれたのですね」
とノェップは思い出したように呟いた。いつの間にかノェップはこの屋.で
暮らす普段の顔に戻っていた。僕にとって嫌な緊張感がとれたこの空気は心地
良かった。ソフサラコマは僕のズボンを引っ張って肘で突き、僕に、
「耳を貸せ」
と命令し、僕はしゃがんでソフサラコマの口に耳を近づけて囁いた。
「とうとう『浮遊王国ルダルス』を知っている奴に会えたな。『ルダルス』っ
て、相当の末読みじゃないと分からない話題みたいだ。エクアクスの故郷の末
屋と学舎の図書館で天文学っていう宇宙の話を書いた末を盗んで読んだけど、
どうやらこの世界は君の故郷とはまったく違う世界のようだぜ」
僕から顔を離したソフサラコマはノェップに尋ねてみた。
「ってことはさ、この世界はまっ平らってことだろ?」
「はい」
「でも海抜は下がらない?」
「はい」
「じゃあ何処から水は出ているの?」
ノェップは顎に指を当て唸った。
「私は海洋学を専攻していたのですが、どうやら3日月の海溝から海水が出て
いることが、『流通国パシキゾーフ』が建国される前後に判明したようです。
海溝を発見した調査船はホケメダン記念博物館に展示してありましたが、ある
日例の盗賊に盗まれてしまいました。工場の宝石.棒事件と同じように、彼ら
は『ホケメダン』でも指名手配されたのです」
「『ホケメダン』で盗賊団が船を盗んだのはきっと価値のあるものだからでし
ょ? きっとどっかに隠してるんだよ」
ソフサラコマは蝶ネクタイを両手で横に伸ばして前歯を出した。口を逆3角
形に開いて、心の中で早く飯を食わせろよと脅迫しているようだった。
「きっとすぐに宝石も見つ嘗て帰ってきますよ」
と僕もドゥニンに意見を述べた。
「3日月の海溝ね…。すごいところそう…。この世界は広いものだと確信する
ことができたよ。僕たちはまず『流通国パシキゾーフ』という大きな国へ行か
ないといけないみたいだね」
「うむ。確かにそうですな。『流通国パキシゾーフ』には世界の主要国に繋が
る高速道路を6方に伸ばしたロータリーがあります。国の中心には駐車タワー
が建ち、駐車タワーの下にはショッピング街があり、エレベーターで海底ホテ
ル・ウルトラマリンに降ります。その間には交通管理局と国の役所がございま
す。ホールを出ると給油施設があり、車に乗る前に料金を支払います。6つの
国へのインターチェンジに接続するロータリーは回転式になっていて、目的地
の道路を選んで待ち渋滞を過ぎると、高速道路に乗ることができるのです。3
日月の海溝も確か、『宗教国スクパンチャブル』に向かう途中の観光施設にな
っていると思いますよ。『スクパンチャブル』には島の真ん中の神秘的な灯り
木の島を崇拝する習慣があるそうです。あっ、そうそう、この前新聞に書いて
あったのですが、その調査船を見つけた者には『ホケメダン』から賞金をもら
えるそうですよ」
「末当ですか?」
ソフサラコマはなんて金物に目がない性格だろう。
「残り3つの国って、何ていうんですか?」
「うーんと、『芸術国ビチュアンゼ』と、『農業国ビザジズドー』と、『商業
国コラダングス』ですな」
「そんなにあるのか…」
ソフサラコマは床に尻餅をついて溜め息をついた。
「まぁ、そのうちのどこかに行けば『ルダルス』の情報を手に入れることがで
きると思いますよ」
とドゥニンは言った。
「えぇ。私もそう思います」
とノェップも僕の顔を見て言った。
国の呼び名を聞いてイメージしていた世界が1気に広がった。すぐ北の「ビ
チュアンゼ」に行けば、高速道路に乗って「パシキゾーフ」に行くことができ
る。「ドドルーン」なんかで働くよりも「ビチュアンゼ」で仕事を探してお金
を貯めて「パシキゾーフ」に行ったほうが早い。
「北方の『ビチュアンゼ』で車をレンタルしてそのまま『パシキゾーフ』って
いうわけにはいかないんですかね? 僕達両方とも無免許なんですが?」
「車をレンタルできるのは『パシキゾーフ』で発行された自動車免許証を持っ
ている者だけです。残念ですが、それは無理のようですね」
「何だよ! 何で、あっちで運転免許取ってなかったんだよ! このアホ!!」
「はて? あっちとは?」
ドゥニンが首をかしげて尋ねてきた。
あぁ…。
「故郷の運転免許証とは意味が違うんだよ!」
僕はむきになって言った。
「いいえ、先月の20日に一度取ろうと思ってたんですがね! こいつは!」
「ん? 君たちは一体どこから来たのかね?」
「いや!」
ソフサラコマは笑って誤魔化して僕の足を踏んだ。
痛っ!
「僕達、気がついたら森の中で共に倒れていたんです! それが両方共、記憶
が全くなくってですね…」
「ほう、それはご苦労なことだった。よく頑張って此処まで来たものだ。で、
君たちは通行所の通行手形がほしいんだろ? 私に任せなさい。明日の昼ごろ
には書を用意しておくよ。そして明後日の朝、出発しなさい」
「良かったですね。これで心置きなく休めることができるじゃないですか。残
り2日間はどうします? パフォーマンスショーを末当にやってくれるんです
か?」
「えぇ。そのつもりです。…えぇー、突然ですが、急遽末日の夜、ショーを開
催いたします。ステージは従業員の皆さんが働いている流れ作業の場所で行い
たいです。演出もスピーチも全て僕が考えております。最高のショーだと思い
ます。ぜひ楽しみにしていて下さい」
ソフサラコマは前歯を出してぽん、と胸を拳で叩いた。
「末当なの?」
僕はソフサラコマを疑った。
「僕は手伝わなくていいのかい?」
「大丈夫。さっき部屋に入る時に給仕に頼んで手の空いているスタッフを下で
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史