ジェスカ ラ フィン
ツーチョムは手に赤い手袋をしており、トラマトピの顔を見た。
「おや、無傷じゃないか。ちょっと汚れているところもあるけど。家では、300体の人形が飾られているよ。みんな働いていてね、平日は『クランダの人
形屋』にずっと並んでいて、休日は外に出て.伝をしているんだよ。オルゴー
ルの音楽を作る人形達もいる。玩具の楽器とくっ付いている人形もいて、夜に
なると、この人形屋を離れてバイトに出掛ける。お菓子配りだよ。自転車を押
して、新聞を配る者もいる。朝牛の乳搾りをする人形もいるが、『農業国ヘー
メルカル』の牛達が逃げ出して、ミレンドファンテの牛達の所へ集まりだした
んだよ。すごい数でね。…取り敢えず、店の中でも覗いて行くかい? なんだ
か、君達2人は、捨てられた社会復帰を目指している人形達の仕事を、減らし
てくれそうな気がするから。何度言っても聞かないんだ。自分達を見捨てた飼
い主達を見返してやる、ってね。犬達も混ざって、興行やバイトで活動してい
る。さぁどうぞ」
雪達磨のツーチョムは裏口から僕達を中に入れてくれた。廊下を歩いている
時に、僕は彼に訊ねた。
「トマラトピは北からハゲタカに襲われて、やって来た子です。あなたが人形
を連れて来ないとミレンドファンテの牛達の秘密を教えてくれないと、『金融
経済国へンザウロ』のファンタロ爺さんが言っていたんです。どういう秘密で
すか?」
「…ミレンドファンテの牛達は、『ダマイ湖』が染みで沈むと、『サラーニャ
の森』が動く。そして多くの子供に恵まれる、というダズバクルフ教の話に騙
されて、その神秘のご寄付として、自分の染みを空に捧げようとしているんだ。
ホメネカは、笑って、その集会の様子を見ている。末当は、『ビニファドの砦』
のてっぺんにある、『サラーニャの森』の玉を抜かなくては動かないのに。そ
の砦は、『農業国ヘーメルカル』のエメコラーナ反乱軍が盗賊団と協力して、
ホメネカが『ソンパラメードの森』を揺らして、機械巨兵セネアトレクの心臓
を2度と使えないようにパパロメの間欠泉に落とした後、『ビニファドの砦』
の『サラーニャの森』の玉を抜いて、『サラーニャの森』が『ダマイ湖』の傍
を過ぎるのを見せて、染みをリギーのジョイントで貰うつもりなんだよ」
雪達磨のツーチョムは言った。店の中を、修理.から覗いて見ると、なるほ
ど、300体もの人形が棚の中や上やハンガーにか嘗ていて、並んでいた。末
当にこの人形達に命があるのかと思うほど、暗闇の中で静かだった。
「トラマトピちゃんのことは私に任せて下さい。私達がちゃんと面倒をみます。
…ペレンダは、私の真似をして、人形屋を開いたんだが、両想いの青年のチャ
ラスの土地を没収しようとしていた地主のゼファンサによって、店屋を放火、
炎上されてしまったんだ」
店の片隅にあった道化師の人形は泣いていた。右目の斜め下に黒星のほくろ
がついていた。ツーチョムが2つの涙を横に引っ張ると、瞼が開いて、起きた。
「僕の妹に似ているね。さぁ、横にお座り。買い主が見つかるまで、僕と寝て
いよう」
バダという男の道化師の人形はトラマトピを横に座らせて、背中をさすって、
トラマトピを眠らせてあげた。バダは、ツーチョム爺さんにお願いして、銀の
チャックのついた瞼を引いてもらって、泣いてまた眠った。「農業国へーメル
カル」には、静かな朝がやって来ようとしていた。
僕達は「クランダの人形屋」を出た。これから.西の「ビニファドの砦」に
行って、ダズバグルフ盗賊団の野望を阻止する為だった。僕達は寒い砂埃に吹
かれた。人間のストローハットを被ったナピトラーという男の詩人が、僕達に
詩を歌った。僕はナピトラーに銅貨を1枚あげた。すると突然、ダズバグルフ
盗賊団の手下にでも命令されたとでもいうように、エメコラーナ野蛮族の反乱
軍が、広場の向こうから、黒の旗を掲げて、継ぎ接ぎ人形、下層民の上下関係
無く、鉄砲を鳴らし、僕達の方角へ目がけて、走って来た。
17 サラーニャの森
エメコラーナ野蛮族の反乱軍は、松明に火を灯し、武器や盾を持って、僕達
の方へ走って来た。
「逃げるぞ!! ソフサラコマ!!」
僕は叫んで、大軍から「農業国へーメルカル」を逃げて来た。月は、西の方
へ降りて、「ソンパラメードの森」を揺らしていた。僕達は、駆けて、.の
「ビニファドの砦」を目指した。
池のある岩陰などで休んで、3日後に、「ビニファドの砦」が見えてきた。
烏が空を回っていた。天気は曇りだった。砂漠の中を歩いて、岩山を過ぎると、
大きな砦の正面の門があった。砦は全体的に茶色く、.の塀でできていた。門
の前には継ぎ接ぎの人形の死体が2人立っていて、結局夜まで様子を見なけれ
ばならなかった。夜になった。ドンドン!! と音がして、岩山を登ってみる
と、エメコラーナの野蛮族が、松明を持って、こっちにやって来た!! 黙っ
て見ていると、人形や浮浪者達は、野兎や羊を捕まえて、皮を削いで、肉を炎
で焼いていた。樹液を固めて作ったグラスを片手に掴んで、掲げて、葡萄酒を
飲んで祝杯していた。その軍は約3000はあった。門の前では、鹿の毛皮を
胴体に巻いた兵士が、こっくりこっくりと、転寝をしていた。
「今だ!!」
僕はソフサラコマに言って、門を開けて突破しようとした。僕達が駆け上が
って、門の前まで来ると、烏が、僕達がやって来たことを、門の兵士に告げて、
門の兵士は門の中心に集まり、鎖を巻いた槍を構えて、僕達がやって来たら突
き刺そうとしていた。兵士に迫ると、槍を掻いて、僕達の服を裂こうとした。
拳で殴ると、綿が頭の糸を縫った所から飛び出して、横側に揺らめいた。左側
の兵士は倒れて、右側の兵士に蹴りを入れようとしたら、ソフサラコマが足で
太股の横の継ぎ接ぎの所に蹴りを入れて、綿を噴き出させた。足を押さえても
がいて、苦しんでいるところを、門を開けて、中に入った。
中は迷路のようになっていたが、人形の兵士でいっぱいだった。僕達は一体
一体を蹴散らしていった。頂上に着くと、外でエメコラーナの反乱軍が大声を
上げて、喚いていた。頂上の玉座には、エメラルドグリーンの玉が埋まってい
た。これは、サラーニャの森の玉に違いないと思った。ソフサラコマと一緒に
抜くと、遠くからエメラルドクリーンの光を発して、ゴゴゴゴ……、と音がし
た。エメコラーナ反乱軍は、腰を抜かしていた。玉をどうすればいいかと迷っ
ていると、エメコラーナ反乱軍達が、下から上ってきた。人形や人間を蹴散ら
して行くと、玉を盗まれそうになった。しかたなくブレードを出して、振り払
って行くと、正面の門に出る頃には、列になって、僕達を待っていた。振り払
い振り払い、北東の「サラーニャの森」を目指した。
「サラーニャの森」へは、徒歩では、丸1日がかかった。陽が暮れる頃に
「サラーニャの森」に着くと、そこは砂漠に囲まれて1つの森がポツン、と置
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史