ジェスカ ラ フィン
ソフサラコマがそう発した時、突然、ドアが開いてセッヂが口走った。
「大変です!!」
「どうしたんですか!?」
僕は言った。
「スタイリストのファィデさんが、記念フォーラムの大広場の露店のファース
トフード屋の前で、何者かにお腹を刺されて病院に搬送されました!!」
セッヂはそう言うと、僕達は仰天した。
「なんだって!? どういうことだ!? 行ってみよう!!」
僕達は叫んで、楽屋を駆け出した。
病院の緊急治療.では、酸素マスクを付けたファイデが、包帯を巻かれて倒
れていた。意識不明の重体だとドゥレンという医者は言った。
「このままだとコンテストに間に合わないかもしれませんね」
手術を担当したへッピーという主治医は答えた。
僕達は病院を出て、広場への階段を降りていくと、「農業国ビザジズドー」
から来たマスラトッチーと、ユフレェと会った。
「お久し振りです、あの時は素敵なタイリュー王の夢を見せてもらいました。
金紗で作ったドレスはいかがですか? 今夜の映画大賞では、女優の方々が素
敵なショーを見せてくますね!! お招き末当にありがとうございました…」
僕達は事情を言い難かった。気持ちを紛議って今までに起こったことを話す
と、彼女は口を手で押さえて目を丸くした。
「末当ですか? 仕立て屋さんが刺されて倒れた、って言うのは。そして主演
女優の方の抽選が外れてしまったと。ではどうするんですか? 他の出演して
る女優さんにオファーして、今から直せば間に合うと思います。私なら、長さ
を変えたりして、サイズを合わせることはできますよ」
彼女は言った。
「うん、できればお願いしたいな。他の女優をオファーしてくるから、パンレ
ットで確認して、審査会のところまで行ってこよう」
彼女を楽屋に連れて行って、パイプハンガーに架嘗ているファイデ特注の、
ペンパタナンズブランドの、金紗のドレスを、カバーを外して、彼女に見せた。
「うわぁぁ…すごい…こんな素晴らしいドレスは、拝見したことがありません
…」
マスラトッチーは、光るドレスを手で触って、その輝きを目の中に入れた。
「そのドレスで、どうしても優勝したいんだ」
僕は言った。
「参加者以外、そして優勝者以外、トバラス王に会場でお会いできないんです
ね……、縫い返しすれば、充分に着れますよ」
マスラトッチーはドレスの裾を持って見て言った。
「すっごく難しそうだけど」
マスラトッチーは.し考え事をしていた。審査会の方へ行っていたウィズウ
ィングルとペリンガ達は、駆けて楽屋の中に入って来て、
「セレクトしようとした女優さんも、他の方に取られてしまったようですよ」
と口を揃えて言った。
「でも、ミシンとソーイングセットはタダで貸してくれました!!」
ラロレーンは手を上げた。
「トバラスが糸を引いているに違いない!!」
ウィズウィングルは皆に伝えた。
夕日が海に沈んでいくにつれ、どんどん時間が過ぎていった。
「君がモデルになって舞台に立とうよ」
定規でサイズを測っているマスラトッチーにソフサラコマは突然言った。
「一般人部門に今からエントリーするんだ! 君にはこれが、きっとぴったり
似合うと思う。そしかないよ。大丈夫さ、縫い直す君が着るんだ!!」
「…でも、このドレスはファイデさんが作ったものなんですよ!! 超一流の
ハダーランセの仕立て屋さんが作ったものを直して、着ることなんて、私には
とてもできないです!!」
「もうそれしかないよ!!」
僕も言った。
「お願いだ!! 自分用に仕立てて、着てくれ!!」
「分かりました…分からないけど、…頑張ってみます!!」
困惑しながら.じてくれたマスラトッチーを置いて、僕達は部屋を出て、彼
女が縫い返し、仕立て直すのを待った。暫くしてマスラトッチーが楽屋で自分
の体のサイズのドレスに仕立て直すと、受付に登録を済ませてもらって、美容
師のところに連れて行って、髪型をカットしてもらい、眉毛を切り、カラーリ
ングをしてもらい、パーマをかけてもらった。それからクレンジングクリーム
を付けアストリンゼンを付け乳液を塗った。ハンドクリームを塗ってもらって、
バニシングクリーム・コールドクリームを専属のエステティシャンに肌に染み
込ませてもらった。それからメークさんにファンデーションを塗ってもらって、
頬紅を付けた。アイシャドー、アイライナー、付け睫毛を付け、マスカラを塗
り、眉墨で眉を覆って、口紅を引いた。
僕達も、「準備を」と声をかけられ、燕尾服とタキシードに替え、濃い朱色
の蝶ネクタイを付け、黒の光沢のある革靴に履き替えた。ユンレェは、ローブ
デコルテに変えた。
彼女はマニキュアとペディキュアを塗ってもらった。頭にスプレーをかけても
らった。
ドレッシングルームに入ろうとすると、僕達は部屋から出た。メークさんに
手伝ってもらって、紫色のマフラーを付けて、網目が金銀白く輝くスパンコー
ルドレスのオートクチュールを着、ピアスとペンダントとブレスレット、リン
グとアンクレットを付けて、「農業国ジザジズドー」産、「商業国コラダング
ス」製造の香水をつけると、ゴールドの金粉銀粉のついたハイヒールを履き、
マスラトッチーのドレスアップが完成した!!
暫くして僕達を呼んだマスラトッチーは自分自身の姿を上から見て、照れな
がら言った。
「…じ、自分で仕立てて着てみたんです…、ど、どうですか?」
「自分で縫い合わせしたんだ。自信を持たなきゃ!!」
僕は笑顔で親指を立てた。
「そうですよ! 似合ってますよ!!」
ウィズウィングルも、燕尾服姿をビシッ!! と決めてシルクハットの鍔を
上げた。
「…優勝したら一生分の金貨だよ!! カジノで遊びたかったらコインに換え
ればいいさ!!」
ラロレーンももちろん笑った。
「頑張って下さいね!! 実席では、お母さんも晴れ姿を見てますよ!!」
ペリンガは、ボタンを閉めて、サスペンダーを勢い良く弾いた。
「良かった、似合ってるよ!!」
ソフサラコマはマスラトッチーの足をポンポンと叩いた。
開演の時刻が近づいて、記念フォーラムの会場から、盛大な拍手が聞こえて
来た。映画大賞のドレスアップコンテストが終了しているようだ。僕達は衣装
.から出て、通路を渡って、ステージの裏側の機械.の隣に歩を進めた。
ステージを横から見てみると、豪華なトロフィーが、他の国から来た団体達
に授与されて、喝采と拍手を浴びていた。授賞式は、華やかな雰囲気で続いた。
そろそろ僕等の一般人部門の出番になると、マスラトッチーに別れを告げて、
ホールの階段を上がり、重い扉を開けて、4階の実席に座った。
中央の席には、「娯楽国ホケメダン」のトバラス王が居た。
「それでは、映画大賞の後は、一般人部門に移りたいと思います。総合部門の
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史