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ジェスカ ラ フィン

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「初めてにしてはなかなかの腕前だと思いますよ。今すぐ『ホケメダン』の劇
団に入れそうなくらい」

「えっ!? なんだって!? 劇団が何だって!? 『ホケメダン』っていう
ところにそんなものがあるのか!?」

「えぇ。ここからはるか北東にあります『ホケメダン』には大富豪の財閥がテ
アトルを運営している財団があるのです。連日大賑わいで、入るには車に乗っ
て高速道路を通らなければならないですし、何でもそこの国の売っているもの
はなんでもカジノで稼いだコインで交換できるという…」

「何!? それは末当か!?」

ソフサラコマはノェップの首に喰らいついた。

ソフサラコマの体重に圧倒されノェップは思わず尻餅をついてしまった。

「…えぇ、夢のような場所です。はい…」

「行ったこと、あるの?」

「いえ、一度も…。工場長とその息子さんが一度行ったことがあるという…す
ごいところだと言っておりましたけど…」

「『浮遊王国』のことは知っているか?」


ソフサラコマを床に置き、起き上がって髪の毛を直したノェップはこう言っ
た。

「『浮遊王国』…えぇ、小さい頃読んだ古典にそのようなことを言っているよ
うな逸話がありましたがね…しかしそんなものがあるなんて工場の人間はおろ
か、町の人でも知らないと思いますよ」

「あぁ、そうか。ならいいや…」

勢いを失くし、肩を落としたソフサラコマは体のごみを払い僕に振り返った。

「よし、決まった。僕たちの目的地は『ホケメダン』だ! 『浮上王国』に行
くのが末当は先だけれど全く情報がつかめないし…さ。なるべく人の出入りが
激しい所で情報収集したほうが早いだろ? 工場にはコインで遊べるカジノは
ないけど、劇団に入るために腕を磨くいいチャンスだ。早速『時計工場』へ行
こう! お腹も空いちゃったし。人参だけじゃ足りないよ!」

顕証するソフサラコマに微笑みを浮かべたノェップはこう言った。

「ディナーは肉料理でよろしいでしょうか? 山菜料理がよろしいですか?
それとも海鮮料理がよろしいですか?」

「いや、僕は肉料理がいい。お前もそう思うだろ? 野草はもう食べ飽きたか
ら肉料理のコースがいいな」

「かしこまりました」

ノェップは僕の方を向いて両手を軽く上げて笑ってすぐソフサラコマの方に
戻った。ソフサラコマは、

「ボケーっとするなよ! 風呂に浸かり過ぎてのぼせたか? 飯だぞ! 工場
だぞ! 俺達は3日間何も食べてないじゃないか! 眠れるぞ! ふかふかの
ベッドだぞ! 僕はお屋.のシャワーを借りるのさー!!」

嬉しさのあまりそこら中を飛び回っているソフサラコマなら確かにその劇団
にすぐ入れそうな気がした。ノェップは声を上擦らせてソフサラコマの瞬発力
を褒めた。

「あなたぐらいの才能の持ち主ならすぐに劇団にスカウトされますよ。動物さ
んでそこまで言葉が流暢で利口で活発的な方はいらっしゃいませんからね。い
やー、良いものを見せてもらった。『時計工場』の皆に見せてあげたたらきっ
と大喜びしますでしょうよ。子供もたくさん働いていますし。ぜひ、今日は明
日のパフォーマンスショーのネタを考えてもらって、鋭気を養ってもらいたい
ですね。エクアクスさんにも感謝しております。こんなに素晴らしい才能の持
ち主とお友達だなんて。羨ましい限りです。…よろしいですか? それではこ
れから『ハヌワグネ工場』へと向かいましょう」

と言って僕とソフサラコマを外に出し、戸締りなどを確認して玄関の鍵をか
け、僕達と共に歩き出した。




階段を上がって緩やかな右カーブを曲がって橋を渡り、うねり道を下りてい
くと大きな「ハヌワグネ時計工場」が見えてきた。入り口には黒い鉄の門が立
っていて工場の周りは煉瓦の壁で4角形に囲まれていた。坂を下っている時に
「時計工場」の全景が視界に入ったからだ。「時計工場」の右側にはお屋.が
立っていた。僕とソフサラコマは門の横の小さな扉を門番に開けてもらい、通
してもらった。「ハヌワグネ工場」の煙突から出る煙は色のない煙だった。工
場内からガチャガチャと音がした。外観は煉瓦の上に木版と銅板と鉄板で打ち
付けて.や風から建物を守っていた。入り口前にトラックが数台止まっていた。
中では2、300人ほどの従業員が6列ほどに均等に分かれてベルトコンベヤ
の流れ作業を1人2組になって行っていた。機械の音、特に鉄板を型取るプレ
スの音と内部の細かい金属部品の洗浄の音がひどかった。僕達は入り口から階
段を上がって、工場の中を3階の鉄骨のバルコニーから眺めることができた。
作った時計はベルトコンベヤで運ばれ奥の部屋へと流れていった。誰1人とし
て手の動きを止める者はいなかった。ソフサラコマは溝の入った鉄棒と鉄棒の
間から体を乗り出してその様子を見ていた。

「工場見学は面白くないからもうやめにしようよ。すごいけど。見ているこっ
ちまで汗掻いちゃうよ」

と言って階段の扉の前に立っているノェップに、

「屋.に通じる通路は何処だ?」

と尋ねた。ノェップは、

「1階の右端の廊下から入るのです。私について来て下さい」

と言った。ソフサラコマとノェップを先頭に、僕達は階段を降りた。



1階に降りて事務.の角を曲がり、作業で使う砂袋が横の壁に立て掛けられ
た通路の先にはお屋.に向かう短い道と時計を装飾し箱詰めする部屋への道と、
1番奥の従業員達の食堂に繋がる道があった。僕達は1番近くにあるお屋.へ
の道を右に曲がって入った。途中の壁には、「関係者、用事のある者以外立ち
入り禁止」というプラカードが貼ってあった。1際新しい扉を開けて外に出る
と群青色で外壁を染めた木製の立派なお屋.が建ち聳えていた。屋.の縁には
全て金箔が塗られていた。玄関まで続く灰色と黒色の、短い石畳の両脇に規則
正しく植えられている、円錐型に整えられた木々が立派だった。ソフサラコマ
もその光景に見とれていた。ノェップがチョコレート板を2枚縦に合わせたよ
うな扉の取手に手を掛けレバーを引いたが開かなかった。.しいらつき混じり
に溜息をつき、扉の横の黒いボタンのブザーを鳴らすと、すぐさま中から、

「はーい」


という若い女の声が聞こえてきた。

「いつもここからが遅いのですよ。あっ、彼女の名はキノストツラといいます」

と言ってノェップは久し振りに僕の顔を見た。ノェップの言う通り、扉の前
に立ち、鍵を開ける音が立つまでが.に長かった。鍵の音がすると、すぐに扉
が一度小さく開き、そして大きく開いて若い女給仕が顔をノェップの方に出し
た。

「お待たせいたしました…お帰りなさいませ。今日は下の通行所にお泊りには
なさらないのですね」

「うんそうだ。今日は大事なお実を連れてきていてねぇ、あんなところじゃお
もてなしができないから、此処のお屋.に連れてきたのだよ。コックはいるか
い? 今日の食事は豪勢なものにしてくれ。こちらの兎さんが我々の為に明日
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史