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ジェスカ ラ フィン

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きたら、夜中に織りましょう。あなた方と、タイリュー王がいい夢を見られ、
叶えられますように…」

マスラトッチーは両腕を額の傍に組んで、強く願った。



小屋には夕日が差し掛かり、空がオレンジマーマレードを塗ったように夕焼
けに爛れていた。鴉が低く飛び、時間が経つのを早く感じさせた。

「『娯楽国ホケメダン』の『エンパーン・カジノ』のスロットマシーンの、
『チャンチャランダの島』への扉は、もう閉ざされたんじゃないかと思うよ」

ソフサラコマは言った。

窓辺のソファーの横に膝をついて、夕焼けを見ていた。なかなか日は暮れな
かった。



夕食を済ませて、夜7時に、「サーラムの葡萄園」の方へ皆で歩いた。ラン
タンを持って林道を歩いていった。.が空をまっすぐ横切って行った。

森に覆われた葡萄畑に着くと、真ん中ら辺に腰を降ろして、じっとみんなで
空を眺めていた。澄んでいて綺麗な空だった。星は1つか2つしか出ていなか
った。マスラトッチーは、ハンカチを.いて座っていた。見上げたまま、夜が
明けた。朝が「サーラムの葡萄園」空いた.地にやって来て、透明な日の光を
差し入れた。僕達はゆっくりと立ち上がり、マスラトッチーの丸太小屋で午後
6時まで眠った。食事は取らなかった。



夜7時に再び森の中へ入っていくと、鴉が「サーラムの葡萄園」の間の土の
中の蔓か根っこを掘り返して、冷たい土の上に立っていた。僕達が無言で傍に
座ると、鴉は口に蔓を銜えて羽を広げてバタバタ…と飛んで行った。マスラト
ッチーの話を体の向きを合わせて聴き、夜が進むのを待った。星が、煌めいて
いた。星の光が森の中に行き渡り、月がいないことを思い出させた。深夜10
時過ぎに、突然紫色の光がたなびいた。タイリュー王の片割れのような道化が
カクカク動いて、逆さになって、夢を唱えた。空から、キラキラと光る黄金の
糸と銀色の糸が絡まったものが降りてきた。それは後ろの木の枝に引っ掛かっ
た。道化は笑ってポーズをして挨拶をして、1跨ぎで遠くの空へ帰っていった。




僕達は木の枝から引っ掛かった糸を取ってほっと1安心し、マスラトッチー
の母親の待つ工場へ行った。真剣に金と銀の糸を選り分けると、ユンレェとい
う母親が工場の電気を点けてくれた。すべてを2つに分けると、蜘蛛糸から繊
維を引き出して、糸を紡いで生糸を糸.に巻きつけ、外して糸繰り機に巻きつ
け、紡績した。それから精製場で精製し、練り糸になったものを機織機で交織
し、製織した。ゴールドシルバーの絹ができた。コンテストまでの日にちは、
あと2日まで迫っていた。朝はまだやって来ていなかった。

「急いで『商業国コラダングス』へ行こう!!」

僕は皆にそう言って絹地を受け取って、外に出た。

「マスラトッチーさん、末当にありがとうございました!!」

僕達は礼を告げると、いいえいいえ、さぁ早く急いで下さい。と遠慮がちに
言ってくれた。ユンレェにも礼を言うと、外から来た人間に慣れていない為か、
.しどぎまぎして、お辞儀をしていた。僕達は昨日のうちから連絡しといた1
昨日のスペーリに向かえに来てもらって、朝3時に「サーラムの葡萄園」を離
れた。



それから5時間して、車を停めた場所に戻り、挨拶を言って車に乗った。
「農業国ジザジズドー」の港のカーフェリーに車を積んでもらって、10時間
かけて「商業国コラダングス」に着いた。車で降りると、辺りは夜に差し掛嘗
ていた。

「『商業国コラダングス』にとうとう着きましたね」

ペリンガは言った。

「商業国コラダングス」の繁華街の入り口の白と黒の看板が目についた。牛
のガンジーの横立ちで顔がこっち側を向いている看板だ。

「商業国コラダングス」は、ブランドの時計屋や宝飾店や洋品店や美容院や
化粧品店でいっぱいだった。ホテルの数も半端ではないようだった。

「すごい…」

僕達は車の中で声を上げた。

「やっぱり世界一の商業国というだけはありますね」

「540ものホテルがこの中心区に集中してあるそうです。さっき貰ったパン
フレットに、そう載っていますよ」

ペリンガは、パンフレットへ目を落としていた。

「『ハヌワグネ時計工場』の時計も此処に置いてあるのかな?」

ソフサラコマは僕に尋ねてきた。

「ねぇ、お土産に買っていこうよ」


「ビチュアンゼは、玉葱だって有名だぜ」

僕はジョーク交じりで返すと、

「嫌いな玉葱は買っていくつもりはないさ。ここに売ってるわけないよ」

と、ソフサラコマは、僕の脹脛に肘をついてきた。

ネオンの迸る、繁華街を車で動き回り続けた。30分ぐらいして、目的の、
「ハダーランセ」に着いた。僕が代表で降りて、汚くない袋に入れた、金紗の
巻いた物を持っていった。僕の服装は、明らかに場違いだった。

「いらっしゃいませ…」

この店は何時閉まるのかと思った。

自動ドアが開いて足を入れると、茶髪の美人そうな女性が奥のカウンターで
ペンを持って事務手続きをしていた。僕が近づいて声をかけると、ヒューリと
いう女性は瞼を上げて、

「はい?」

と声を出した。

「あの…、先日、『娯楽国ホケメダン』からオートクチュールを注文した、映
画祭・演劇祭で着服する、ドレスのデザインをFAXでお送りしたエクアクス
という者ですけど」

「オーダーはお受け賜っています。…絹地をご用意していただく、というのが
規約であるらしいようですが、ご用意していただいているんでしょうか?…」

「はい。こちらのドレスです…。あの、お電話で約束していただいた、ファイ
デという方はいらっしゃいますか?」

ヒューリはB4サイズの記録帳をパラパラと捲って、こめかみに近い後ろの
部分を、黒ペンを持った手で押さえながら、.し考えていた。

「もう『商業国コラダングス』の中央繁華街にはいないみたいですね。スケジ
ュールが満杯で、時間がずれてしまった分、会うのが難しくなってしまいまし
たね…」

ヒューリは困った表情をした。

「分かりました。…何処へ行けば、ファイデという人に会うことができます
か?」

僕は訊いてみた。

「北西の『タッレッグ牧場』にいるようです。今から車で行ったらまだ間に合
うんじゃないんですか。道順なら、標識が繁華街を出た所にあるので、それを
見て進めば大丈夫です」

ヒューリは言った。

「ありがとうございました。では、その、ファイデという方にお会いしてきま
す」


僕はお礼を言って車に戻った。

車、特に高級車の通りの多く高級靴店や化粧品店の並ぶ通りを通った。歓楽
街を過ぎると、オレンジ色の、外灯が、モダンな街路を照らしていた。完全に
街を出ると景色は180度変わり、広大な牧場が軒を連なっていた。



暫くすると、「タッレッグ牧場」という看板が見えた。牧場に、案外小さな
サイロが立っていた。僕達は牧場の.地に入って車を降りた。サイロの隣の大
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史