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ジェスカ ラ フィン

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レースで勝って、故郷に錦を添えて、胸を張って、帰るのですよ」

「お母さん…」

ウィズウィングルは突然泣いた。

「勝てなかった馬はどうなるのです?」

ラロレーンは尋ねた。

「えぇ、それは他に受け取ってくれる方がいなければ、殺されるか、『娯楽国
ホケメダン』で馬肉にされるかだけですよ」

「へぇ…」

ソフサラコマは声を出した。



30分程進んで、木の柵で囲まれた大きな先の見えない.地が見えた。

従業員が言った。

「.はここは、蚕の産地でもあるんです。繭だけでは終わらず、落花生や大豆、
玉繭を作りますよ」

「衣服を作るのに大事な桑は、『農業国ビザジズドー』の大地でとります、っ
て、前、ドドルーンに帰った時、畑にいたおばさんが言ってたんだ。な?」

ソフサラコマは後ろの仲間達を見て、スペーリに口添えした。目の前を耕運
機が過ぎて行った。

「よく知ってますね。その通りです。此処、『農業国ビザジズドー』には、果
樹園と花樹園がたくさんあるのですよ」

僕達を乗せたトラクターは果樹園の道を、煙を立てて過ぎて行った。



5時間程止まらずに走って、森の奥にある、「サーラムの葡萄園」の近くの、
その葡萄園を所有していると見られる人間の丸太小屋にトラクターは着いた。
「サーラムの葡萄園」と書かれた看板が随分前にあった。もうここまで来ると、
今までいたところとは別世界のような雰囲気を感じた。木製の赤く塗ったポス
トを見ると、マスラトッチーと名があった。僕達はスペーリにお詫びとして金
貨を10枚やり、別れを言って、辺りを歩き回った後、小屋の玄関のノックを
した。

「こんにちは、誰かいませんか」

僕は言った。しばらくすると、スリッパを履く音が聞こえて、

「はーい…」

と返事が返ってきた。女性だ。


ドアが開けられると、若い茶髪の女性が顔を出した。かなりボロボロの衣服
を身に纏った僕達の姿を見て、マスラトッチー、という女性は.し戸惑ってい
たようだ。

「あのー、すみませんが、『サーラムの葡萄園』の所有者の方ですか? なら、
お聞きしたいのですが金と銀のホメネカの糸というものがかなり前に、『サー
ラムの葡萄園』に落ちてきた、と言い伝えられているようですが、観光地に認
定されるほど有名な場所でしょうが、末当なのでしょうか?」

「え…え、えぇ…。その通りです…」

マスラトッチーは答えた。

「末当ですか? 我々は、その糸がどうしても欲しいのです」

ラロレーンは言った。

マスラトッチーは困った表情をして言った。

「この間此処に『娯楽国ホケメダン』のお偉いさんがやって来て、ホメネカの
糸が見つかったらしいが、貰っていってもいいかね? この土地は、元々は私
の先祖のものだ。譲ればその代わり観光地にしてやる、と口々に喋って、バギ
ーでいって行ってしまいました。私が夜、不要な葡萄を点検しに来た時に、偶
然光る糸を見つけたのですが。そんな大事な物ではないと思って、家に持ち帰
って、置いておいたのですが」

「なんてこった…そういうことだったのか…」

ソフサラコマはうな垂れた。

「トラクターではなく、車で僕達の通って来た近郊の畑は、なんという畑です
か?」

「『チロドンの田園』です」

ペリンガが訊き、マスラトッチーはそう答えると、

「私の家にお上がり下さい、お茶でも飲みながら、お話をお聞かせ下さい。ど
ういう理由でここまで来たのですか?」

と訊ねてきた。



小屋の中に4人と1匹が入ると、マスラトッチーは手招きして、

「どうぞ」

と言って、台所の前に置いてあるテーブルに座らせてくれた。戸棚からクッ
キーとカップを出して、お湯を沸かせて、お茶こしに注いで、6杯分の紅茶と
スプーンと下受け皿をテーブルに出した。砂糖とクリームを混ぜ、カップを置
いて口を開いた。事情を聞いて、マスラトッチーは口を開いた。

「…その、タイリュー王がお目.めになり、眠る時に見る夢があそこの葡萄園
ならば、遥か上の空から、ホメネカの金の糸と銀の糸が降ってくると言い伝え


られています。あなた方の話と、こちらの風紀を合わせて話したのです。なら
ば、タイリュー王が目.めた今なら、毎夜ホメネカの糸が落ちてくるかもしれ
ません。タイリュー王は、あなた方が此処にいらっしゃったので、此処の夢を
見ることができるかもしれません。それなら、あなた方が欲しいものが手に入
るでしょう?」

ウィズウィングルは紅茶を飲み干して、テーブルに手の平をつけた。

「そうかもしれません、しかし私達には時間がありません。タイリュー王は、
『農業国ビザジズドー』に行ったら、『サーラムの葡萄園』に行ってみなさい。
きっといいことがあります、と言ったまでです。3日後に行われる、『娯楽国
ホケメダン』のコンテストに間に合いません。グランプリを受賞しなければ、
ホケメダンの王に会うことができないのです。だからどうしても今夜か、明日
までにホメネカの糸を手に入れたいのです」

「ホケメダンの巨大TVスタジオと、地下TV局のオーナーのトバラス王は知
っています。50年前に起きた戦争に勝者した者です。戦犯者は、『イージュ
の町』の牢獄に閉じ込められ、殺されてしまいました。遺体はそのまま残り、
あとの敗者は、『機械国ルチャーナ』の鉱山で働かされ、力尽きて死んだ者は、
墓所に葬られました。…今は、『娯楽国ホケメダン』の『シュワイニホロコー
スト処刑場』を移したようです」

「知っています」

僕は言った。

「『機械国ルチャーナ』に住む、ナヌコラーゼという老人から聞きました。そ
の糸を取ったら、『機械国ルチャーナ』へ送って製糸して、錘を使って、織り
交ぜてもらおうと思ったのです。しかし、高価でありそのような事情があるの
なら、なおさら、『農業国ビザジズドー』の人に頼むしかないと思ったのです
…」

「それなら、私に任せて下さい」

マスラトッチーは言った。

「ホケメダン演劇大賞の授賞式で主演女優が着る、ドレスが欲しいのですよ
ね? ホメネカの糸も繭と同じです。ホメネカの蜘蛛糸を合わせ、生糸を精練
し練り糸を作り、生糸と練り糸を合わせて絹糸を作り、その2末を織り交ぜて、
絹を作ります。その黄金と銀色の絹地を、コラダングスに持って行きましょう。
ドレスをオートクチュールしてくれる店の名前は何と言うんですか?」

「確か、ハダーランセです」

僕はメモを取り出して言った。

「精製と織る作業に、やはり時間が奪われて、数時間はかかります。もし、今
日、タイリュー王が夢を見ることができなかったらホメネカの糸は取ることを


できませんし、明日見ることができなかったらコンテストには間に合いません。
今日の夜は1日中粘って、明日の日中は、眠って、最後の夜に勝負を賭けまし
ょう」

「その作業は、どこでやるんですか?」

ウィズウィングルが訊いた。

「裏の、湖を隔てて立っている母親の工場で、です。もし今日、取ることがで
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史