ジェスカ ラ フィン
力で制御して、巻物を読み続けていた。巻物は誰が用意したのだろう、と僕は
思った。頭髪の短い男性は、分厚い瞼の奥で、暗闇を彷徨い、黒い水の中を泳
いでいた。白髪が炎の色に当たって皓皓とした重みを持っていた。背後の土壁
剥き出しの太い柱は、闇の向こうまで空高く伸びていた。壁が闇に入る前にシ
ャングリラが黄ばんで存在感を出していた。先程の爆発と地震で落下しなかっ
たのかと疑問に思った。バートンは目を閉じて静かに座っていた。シャングリ
ラが高くなったように思えた。照明がスピーチャー1人に当たっていた。何か
の紹介の後に遺体の入った棺が照らされた。照明の中には埃が溜まっていた。
この世はなんと儚いものだと感じた。あの埃が生き物だったらいいのになと思
った。司祭が僕を注意しようと見ているように見えた。僕が生きていた世界と
は違った世界(.際にそうなのだが)の人間のように思えた。
バートンを見ると眼鏡の隙間に真剣な眼差しが見えた。
もう.しで2時間が経とうとしていた。意識をスピーチに向けて集中してい
ると、
「それでは、皆さん、起立して?ビチュアンゼ国歌?を斉唱して下さい」
とスピーチャーは言った。闇の右奥からドドドドド…と、地震のような音が
聞こえてきた。それに併せて、僕達の席の人が立ち上がった。国歌なんて知ら
なかったけど、取り敢えず口だけ開けといて前の旋律と似ていると分かった所
だけ歌うようにした。ラロレーンが弾いているように思えたけど、上手いとも
下手とも思わなかった。
着席すると、今度は、
「パイプオルガン演奏です」
と言って.し照明が明るくなると、拍手が鳴り響いてラロレーンがゆっくり
登場してきて、感動的で、情熱的な演奏をこなした。席を立つと閉会の言葉が
始まって閉会の言葉が終わると灯りが全て点いてグランドピアノで曲を3曲奏
で始めた。正面の1番奥のステージでオーケストラがその雰囲気に倣って弾い
ていて、観実が立って自由に花束をへノルム王の祭壇に贈り続けると、
「出棺の時刻です」
というアナウンスが入って司祭の集まりがステージの脇の席から集まってき
て丁寧に祭壇から下ろして前に置いて僕達が出て行った後に担いで外に出てき
た。
僕達は夕暮れの空の下を階段の上にいた。何千人とも知れない群集が列とな
って、遥か.の火葬場らしきもののところまで道を作っていた。
城下町の民衆や人々も集まり、列を作って、ICのところまで延びていた。
北には、海があり、西方には末当に先のとがった「ドゼルの半島」があり
「ターピスの小島」があった。何か半島と小島の間に起こっているように見え
た。
よく見てみるとぼんやりと横に続いた森と1点光った平たい「イージュの町」
と.し離れて『ペクノの灯台』があった。粘土を伸ばしたような港にはアンテ
ナを差しているような先頭が光っている船がたくさん見え、「ドゼルの半島」
の上にへばり付いていた。
風は山の上から階段に吹き、埃を地上に降ろしていった。何千人という会話
がそこら中から発されていた。上の頂上を見ると、ラッパを持った法服の若い
司祭は、こっちが気が付いても、吹く構えの姿勢を動かさず、じっと見つめて
いると突然3角形の紋章の旗の下がったトランペットを持ち上げ、息を.し吸
って、鳴らした。
聞き惚れていると、後ろから他の楽器も加わって、バクパイプやピッコロや
オーボエやクラリネットやホルンの奏者が階段を下りてきて、わけの分からぬ
愉快な曲なのか悲しい曲なのか分からない曲を吹いた。全ての楽器隊が下りる
と、先頭に聖書を読み上げた先ほどのスピーチャーが立って、聖書に目を落と
しながら、木棺を担いだ司祭の幹部達がゆっくりと1歩ずつ先に出して行進し
てきた。1向に振り向かず、聖書を両手に持って指でロザリオを押さえて老司
祭が降りてきた。僕達のことを.なからず知っているような顔つきだった。デ
ダロンズ町長の姿が下の階段の入り口付近で見えた。他の国のお偉いさんと得
意げに話しているようだった。ラロレーンをデダロンズ町長に会わすと危ない
と悟った。
「ラロレーンはどこですか? あそこにデダロンズ町長の姿が」
バートンは目を大きく開いた。
「…大変だ。私も君も此処で会うと『ドドールン』には戻れなくなる。火葬す
る前に、ラロレーン君を探してやはり此処から脱出しよう!!」
僕は焦った。
「やはり西の『ドゼルの半島』からですか? 港には今もなお厳重な警戒が続
けられています。しかし行くしかありません。ここに留まっていたら終わった
後に、1人1人の取調べが始まるはずです。『ビチュアンゼ』の政府の奴らは
犯人を遊ばせていると思えないんです!! ソフサラコマも行方不明です!!
…1か、8かで『ドゼルの半島』を渡るしかありません! ソフサラコマが僕
達のことを先読みして『ターピスの小島』の『イージュの町』へ向嘗ているこ
とを願います」
僕達が動こうとする前に、突然宮殿からアナウンスがかかった。
「『ターピスの小島』から泡が大量に発生しています。警察を動員し、厳重な
警備を施しますゆえ、不審者を見つけた場合はただちに市役所に連絡するよう
に」
僕達は困惑した顔を見合わせながら、棺が下がる前に階段の横の坂を駆け上
がり、丘の上の宮殿へと向かった。宮殿の柱と柱の間を通り抜けて、入り口に
いる警備員や司祭達の脇を駆けた。ペリンガが先頭を走った。長い暗い廊下を
過ぎると金色の燭台で熱くなってしまった会場で、数人の人間がいるのを気に
しながら中心の絨毯を走った。走っている時、複道にラロレーンを見つけた。
上に向嘗て僕は叫んだ。
「『ドゼルの半島』へ行こう!! デダロンズ町長が階段の下で待ち構えてい
るんだ!!」
「分かりました!!」
僕達は宮殿の裏口に回って草の坂を滑るように下りた。鉄の柵を乗り越える
と、爆弾の被害のない市場に入った。人ごみを北に掻き分けて、町の外れを目
指していた。北の搦め手門から海岸に出て、陸の切れ目に沿って北西に延びる
港の波止場まで走った。案の定、警察が数台のパトカーに乗って僕等を追いか
けてきた。船着場の防波堤を走っていくと、
「止まりなさい!」
と警告して銃弾を発砲してきた。
走りながら鉄砲の弾を避けて僕はウィズウィングルがいないことに気づいた。
「ウィズウィングルをビチュアンゼに置いてきた!!」
「戻る暇がありません!! 彼なら大丈夫です!! 我々が帰ってくるまでも
つでしょう!!」
警察から逃げながら「ドゼルの半島」の出っ張りが見えてきた。紫色の物体
が海の上に浮かんでいた。警察のパトカーは速度を上げてその物体へ近づいて
いった。
「待ち伏せするつもりだ!!」
「…あれは末当に泡なのかな?」
そのままパトカーは海の中に吸い込まれていくと、パトカーと紫の物体は重
なって紫の物体だけになった。走っていくとそれが末当の泡の橋であるという
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史