ジェスカ ラ フィン
「うっ!」
と叫ぶと、テントのポールが1末抜けて空へ飛び上がっていった。
体を起こす頃には風が止んでいた。起き上がると体から砂が零れた。ペリン
ガはゼーゼーと、粗い呼吸をしていた。ラロレーンもバートンも起き上がって
砂を下ろした。
「大丈夫か? 怪我はなかったか!?」
僕は皆に言った。
「この煙は一体何なんだ!? 何が起こったと言うんだ!?」
「テロです!! 盗賊団が爆弾を仕掛けていたんです。我々を殺すために!!」
ラロレーンは頭が混乱していた。
「リギーが『ジャトジャス遺跡』で僕達を待っているんですよ!! 盗賊団か
誰かが僕達の仕業にするかもしれない!! 混乱が起こったら、僕達は牢に入
れられて永遠に出れなくなってしまう!」
胸の砂がサラサラと下に落ちると、ソフサラコマが居ないことに気づいた。
キョロキョロ辺りを見回しても、何処にもいない。テントが半分ぐらい埋まっ
ていて1帯は白い砂漠と化していた。壁だけはほとんど無傷でへノルム王の城
を囲っていた。
「ソフサラコマが…居ない」
全員がはっ、と我に返って周りを見回した。風が吹き、辺りを荒涼とさせた。
遠くのほうで額から血を流している人が起きて埃をほろっていた。隣に埋まっ
ていた人を起こして何か喋っていた。
「ソフサラコマさんが居ない…どこかに吹き飛ばされたんでしょうか?」
「そんなはずはない。私達でちゃんとかばっていたじゃないか!!」
バートンはテントの落ちたところまで駆けていって、いないのを確認すると、
周りを走って探し回った。
「きっとリギーにさらわれたんだ」
ペリンガが呆然として言った。
ビチュアンゼの全景はまだだいぶ残っていた。一面が真っ白で、瓦礫の下や
店の中からもぞくぞくと人が出てきた。
「でもソフサラコマ君以外、無傷でみんな無事のような気がするよ」
ウィズウィングルは身震いをして埃を振り払った。
「式は予定通りに行うんだろうか?」
僕は独り言のように呟いた。
「もうICに向かうのは無理だね。ここは大人しく、ラロレーンを宮殿まで連
れて行って、へノルム王の出棺を見送ろう。その後に、僕達は港を通って、
『ドゼルの半島』に行かないといけないみたいだ」
活気が戻ってきた町の様子を気にしながら全員で探しに当たった。しかしソ
フサラコマの姿はどこにも見当たらなかった。2時間ばかり経った後、丘を見
てみると建物が崩れて屋根が飛んでいた。丘の壁が岩サイズに欠けて落下した
せいで蒸かしたじゃがいもを細かく砕いたようになっていた。宮殿の前では数
十人の人間が手作業で岩を下に落としたり箒で石畳の埃を払ったりしていた。
雲が身近に感じられた。
「…そろそろ参列の時間ですね」
「ソフサラコマのことはどうする?」
僕は泣きそうになって訊いてみた。
「リギーに誘拐されたっていう証拠はないんですよ?」
バートンは怒鳴りつけるような口調で答えた。
「私もみなさんも懸命に町の中を探し回りました。沢山の方々に話を訊きまし
たが、収穫はゼロでした。ここはひとまずちゃんと式を済ませて、それからも
う一度聞き込みをしましょう」
「ソフサラコマさんのことだから『パシキゾーフ』まで車を使ってドライブに
でも行っちゃったんじゃないですか?」
ウィズウィングルは瞳に涙を溜めてわざとおどけた口調でそう言った。
「それならならいいけど…」
ペリンガは表情を変えずに歩を進めた。
ウィズウィングルを宿屋の厩に預け、僕とバートンとラロレーンとペリンガ
は随分ときれいになった宮殿への階段をゆっくり上がった。ところどころの段
に罅が入っていて力を込めて石段を踏んづけて蹴ったりしたけれど壊れること
はなかった。町の人間ほぼ全員で大掃除をしたせいか.だに救出されていない
人はいなかった。後ろを振り返ると町の中で人々が蠢いていた。宮殿の入り口
は開いていて、奥の通路へは8つの燭台が置かれ、大聖堂には数千人規模の人
間が集まっていた。僕達は部屋の端の通路を渡り、会場の支配人にラロレーン
を渡して目立たないように席のほうへ入った。全体的が白を基調とした幕や花
が中心の祭壇で丘のようになって、あらゆる方向から道を作っていた。丘の中
腹で棺に収められているヘノルム王の死体に花束が手向けられ、観実は輪のよ
うに囲んでいた。バートンは入り口から正面を見て、右斜め前の壁に嵌め込ま
れてあるパイプオルガンの調律に向かった。僕とペリンガはバートンの分の席
を空けて、中心の祭壇から右斜め下の席に座った。しばらくすると照明が暗く
なり、籠を持った若い正装の女性が蝋燭を取り出して僕に3末分手渡した。同
様のことが会場の至る所で起こっていて、祭壇の周りの燭台は火が点けられて
棺に近い席から蝋燭に火が点いた。その火を外周の人へ向けて隣の人に移して
いった。僕のところまで来ると隣からもらい、ペリンガの分だけ床に蝋を垂ら
して火を点けて立てた。
1つ席の空いた向こうの人に火を渡して、ざわざわとした雰囲気の中に居る
と、後ろからバートンがやって来てコートを丸めて椅子の蝋燭を持って席につ
いた。
「いやー、やっと終わりましたよ。ものすごい型の古いパイプオルガンでね、
250年前に作られたものらしいんです。今でもしっかりと健在で、葬式と雖
も、あのパイプオルガンの音楽を聴きに来た観実もいるでしょう。荘厳な音色
には世界中から来た人間を納得させるものがあります。あのオルガンもラロレ
ーン君が弾くんですよ。式は2時間程あります」
バートンはそう僕に告げて辺りを見回し隣の人から火をもらった。ペリンガ
が椅子の上に乗って蝋燭に顔を近づけて蝋を食べようとしたところをバートン
に怒られた。式場の炎は揺らめいていて、誰かに合わせて何かがリズム良く炎
を揺らしているように見えた。蛍と思わせる光景は端の炎の位置の高さと不確
かなリズムによって現.へ引き戻された。
マイクに人の声が入って国王の葬式の開会の始まりを告げる言葉が流れた。
1同はしんと静まり返り炎を1定の位置に留めていられないものがあった。悲
しさのあまり震えているのかもしれない。炎のせいか外の光のせいか俯く人が
あった。回想に耽っているのか口を歪まして悲しい表情をしていた。その人の
蝋燭の減りだけ早かった。蝋は上手い具合に掴んでいる前で止まり、できた線
の上で滑って炎のせいで光っていた。透明なマニキュアが蝋の次に光っていた。
その次に革靴が光っていた。パイプ椅子の床に当たるパイプの上の部分が4番
目に光っていた。彼女の近くの燭台が近くで彼女を1番照らしていた為、スピ
ーチなど忘れて見とれていた。頭にパーマをかけていた。ウェーブのかかった
パーマだった。友人と来ているようだった。友人のほうは目立たなかった。燭
台の炎が揺れると、僕は気を取り戻して中心の祭壇に目を向けた。悲しい話し
かしていなかった。法衣を着た西洋人風の体格のいい老人は、堂々と震わせて
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史