ジェスカ ラ フィン
ロンズ町長も参列に参加するから、おそらく盗賊団の1派も『ビチュアンゼ』
の城下町に潜伏しているに違いない。盗賊団とデダロンズはグルだ。今日町を
出てもいつ出ようとも、君達を確.に襲ってくるでしょう。私の命も危なくな
ることは当の昔から気づいていました。となると、逃げ道は『ジャトジャス遺
跡』の『ルダルス』への祭壇しかありません。私達はこの世界に閉じ込められ
ています。君達が天上世界、『ルダルス』に行く理由はこの世界の真理を知り
たいからだと感じます。リギーは13月の月の石を持っています。あとは選ば
れし者を天上人は探すだけです。リギーはそれを知っていて君達を導いていま
す。扉を開ける鍵は揃いました。トワーラを復活させる前にリギーを倒しまし
ょう。私は全力で君達を.援します。…時間です。さぁ行きましょう」
「俺ももちろんついて行くぜ」
犬は舌を出して答えた。
バートンの家の入り口の前でこの馬の背に乗りませんか? と聞くと、
「いや、健康の為に歩きます」
と苦笑いして答えた。犬も歩いて行くようだった。観光実が僕達をキョロキ
ョロ見た。
町の外に出て、畔の道に出て川沿いに道を外れるとすぐに森の中へ入った。
「末当に『ルダルス』へ行きたかった理由は僕がそこから小包でこいつ宛に届
けられたからなんだ。記憶が全く無くってさ、どうしてそこから僕は落とされ
たのかなーって思ったんだ」
「そうなんですか。小包に浮遊国って書いてあったんですね? …とんでもな
い話だ…やっぱり『ルダルス』は.在したんだ…」
バートンはウィズウィングルの横で歩きながら顎に手を押さえ、頭を働かせ
ていた。
「…トーワラの件で悩んでいたこともありましたが、ニュースで、盗賊団らし
き者が『ドゼルの半島』に泡の橋を作った、というのを聞いたとき、神話は末
当の話だったと.感しました。『ルダルス』からの小包をできれば見たかった
ですけどその話が聞けただけでも光栄です」
草に写る犬の影を見ながら彼は考え事をしていた。小川が木々の下でそよそ
よと流れていた。犬に、
「背中に乗らないかい?」
と訊ねて、ウィズウィングルの太股の上に乗せた。
川が2手に分かれた。田園地帯の土色が森の隙間から見えなくなると、「ハ
ノスマトセの泉」の前に出た。思い出したようにバートンは、
「ウィズウィングル君は渡れないかもしれませんね…」
と言った。丸太2末の橋が見えると、背中から降りようとしたがウィズウィ
ングルが、「任せて下さい」
と振り向いて橋の前に来ると蹄を器用に立てて歩いていった。
「上手いじゃないか」
と先に橋を越えていた犬は言った。
「ウィズウィングルと言うのか? カッコイイ名前だ」
「あなたの名前は何と言うんです?」
ウィズウィングルは犬に聞いてみた。
「ペリンガって言うんだけど、カッコイイ名前だろ?」
「伝記の勇者から名前をとったんですよ」
バートンは答えた。
「君達はどこで出会ったの?」
ソフサラコマは訊いた。
「ビチュアンゼで。追われたんだ」
そうペリンガは答えた。
大きな木々の隙間を抜けると泉のほとりに丸太小屋が見えた。切り株の上で
まき割りをしている痩せ細った青年がいた。彼がラロレーンに違いない、と僕
は思った。カーン、コト、カーン、とリズミカルな音が聞こえ規則の正しい動
きが見えた。泉は思ったよりも綺麗ではなかった。風に水面が僅かに煽られて
白い波が立っていた。青年の元に寄って行った。
「こんにちは。今日は君のピアノの調律をしにやって来たよ。それともう1つ、
へノルム王の式場で演奏してもらうよ。使いの者から聞いているだろ? 盗賊
団にへノルム王が殺されてしまったんだ。お陰でビチュアンゼからパシキゾー
フまでの高速道路は使えなくなってしまったよ。君は『ビチュアンゼ』でピア
ノを弾いて用事が終わるが、僕達はちょっと事情があって『ドゼル半島』を渡
って『ターピスの小島』まで行かないといけない。2度と帰って来られないか
もしれない。君も苦しくて辛いかもしれないが、頑張ってくれ。ねぇ、私はち
ょっと小屋の中に入ってピアノの調律をしてくるよ。30分ぐらいで終わるか
ら外で待っててくれないか。ねぇ、エクアクス君、もしピアノのことに詳しい
んなら彼に訊いてみてくれ。彼には答えられない質問はないと思うよ」
バートンはペリンガと一緒に小屋の中へと入っていった。入っていく前に、
ラロレーンは、
「はい…」
と返事をして何か思い詰めて割った薪を小屋の隣に山積みして戻ってきた。
「僕も薬を飲みにちょっと行ってきます…よかったら部屋に入りませんか?」
「いや、いいですよ。すぐ出発するんですし。ここで待っています」
僕が答えると彼は頭をペコリと下げて中へ入っていった。
暫くしてラロレーンが外に出てきた。
「あと20分ぐらいすると終わるそうですよ。僕も衣装に着替えて来ました。
こんにちは、私の名前はラロレーンといいます。1.プロのピアニストと作曲
をやっています」
「へぇー…一流のピアニストって.際見たことがないけどしゃべり方とか伝え
方が他の人よりはっきりしているよね」
ソフサラコマはそう言った。
「この景色に似合う男性ですな」
ウィズウィングルが強調した。
「あの、お父さんが使っていたというピアノがこの奥にある、って末当です
か?」
ラロレーンは躊躇って答えた。
「えぇ、末当です。3日月の出る夜になると、お父さんの亡霊が現れて1人ピ
アノを奏でるのです。怖さのあまり逃げる人もいますが、中にはうっとりして
その曲に聞き惚れてしまう方もいます。彼の弾く音楽は幻想的です。森が溶け
て歪んでいくような…鳴り終わると、椅子の上には誰も居なくなるんです」
「誰がこの森にピアノを運んできたのですか?」
「それが…言いにくいのですが…リギーというお方なんです」
「…えぇ?」
僕は彼の言葉を疑った。
「…末当です。捨ててしまったのですがある日この泉の周りを散歩していると
偶然見つけたグランドピアノの上に手紙が。走ってきて読んで見ると、?お前
の父親の形見のピアノだ、リギーより?、とありまして。見.えのあるピアノ
だと思ったらやっぱり幼い頃見たことのあるピアノでした。それからお金を払
って泉のほとりに丸太小屋を建ててピアノと一緒に引越ししてきたんです。デ
ダロンズ町長のせいで観光実が増えてきて欝気味だったんですが、ちょうどい
いと思って移ってきたんです。あのリギーから返して貰ったグランドピアノは
そのままにして守り神にしています。まだ時間があることですし、そのピアノ
を見て来ましょうか?」
「ちよっくらそのピアノを拝見してこようぜ」
「そうですね」
ソフサラコマとウィズウィングルは僕に賛同を求めるような眼差しで見つめ
ていた。
森の奥深くに入っていくとすぐに難破し死亡したホケメダンで父が使ってい
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史