小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ジェスカ ラ フィン

INDEX|17ページ/114ページ|

次のページ前のページ
 

「町に来たんです。入れてもらえませんか?」

僕は兵士に訊ねてみた。

兵士はすぐにムッ、として姿勢を正したが、

「今日町で宿泊するにはデダロンズ町長のところに行って何か自分を証明する
ものや招待状を見せないといけない。此処まで来ていかにも怪しいお前達を帰
さない。何も持っていなくても中には入れるが、翌日速攻出て2度と入れない
ようにしてやるぞ」

兵士は音を立てて槍をソフサラコマの首元に当てた。ソフサラコマは何も動
じなかった。

「何を言うんだ? 俺らはちゃんとドゥニン工場長の紹介状を持っているんだ。
『ハヌワグネ時計工場長』の紹介状だ」

ソフサラコマは右の布袋を漁って、中から紹介状を取り出した。そして紹介
状をばん! ぴん! と伸ばして見せると、兵士はハッ、としてガチガチと音
を鳴らして槍を降ろし両手で押さえた。

「末当は団体で町の観光課に住民登録してある国から役所の承諾をもらって訪
れる日にちと滞在日数を登録しなればならないのだが…まぁよかろう、入り口
は特別に開けてやる。偽の紹介状ではないな。嘘だったらただじゃおかない
ぞ!!」

太い煉瓦の柱についたレバーを回してキュリキュリとゆっくり、全ての鉄柵
を縮め終わると、入っていいぞ!! という威勢のいい声が聞こえてきた。ソ
フサラコマと僕は似た種類のため息をついた。

「落ち着いて行きましょう」

ウィズウィングルは僕等を客めて「ドドルーンの町」の中へ入っていった。



入り口のすぐ近くには噴水があった。通りに行き交う「ドドルーンの町」の
人々の姿が見えた。広小路の居酒屋では観光巡りをしに来た人で賑わっていた。
ペーブメントを走る、馬車でどこかの国から来た紳士1家もいた。ブロンズの


ベンチの間に置かれた外灯が町の煉瓦の遊歩道を照らしていた。しばらく商店
街を行くと何もない広い広場に出て、T字路の先の外灯の看板には?天才ピア
ニストラロレーンの家?とあった。月が身近に感じられた。

ウィズウィングルが月を見上げて言った。

「静かな町ですね。こんないい町で、みなさんが言っていたように末当に恐ろ
しいことが起こっているのでしょうか?」

「なぁ、天才青年ラロレーンは『ハノスマトセの泉』のほとりに住んでいるん
だろ? じゃあ今は彼の家は記念館かなにかになっているのかなぁ」

「僕達はビチュアンゼに行かなくちゃいけないんだ。彼の問題にかまっている
暇はないよ」

「それはそうだけどさ、デダロンズ町長が俺達の情報を聞きつけて何か策を打
っていたら大変だぜ。ラロレーンに会って彼の悩みを解決してやるんだ。そう
したら彼とデダロンズの仲は良くなり、国やこの先の町々で嫌な面倒に巻き込
まれなくて済むだろう?」

「うん、その通りだ。でもその泉の場所が分からない。じゃあデダロンズ町長
に嗅ぎ付かれないように明日町の人に聞いてみて、泉に向かおう」

戻り道を右折し、酒場で降りて店の人にデダロンズ町長の家はどこか、と訊
ねてみた。酒場から直進して噴水を過ぎた先に、大きな豪邸があった。表本を
見るとここは町長の家だった。家の前は柵で閉じていて、ブロンズのリングを
何回か叩くと、男が走ってきて柵を開けた。

「此処はデダロンズ町長の家兼町の役所なんです。お訊きしたいことがあれば
なんなりと申して下さい。…私の名はぺパーンチです。よろしくお願いします。
今日はもう遅いですが構いません。ドドルーンに滞在するための許可書が必要
なんですね? 宜しいです。何か自身を証明するためのものをお持ちしていま
すか? 招待状でも構いません。どちらかお持ちですか?」

僕は先頭に立って答えた。

「はい。知り合いの工場長さんから紹介状を受け取っているのです。これさえ
あけば町に入ることができるとおっしゃっておりましたので、これを持ってき
たんですが」

「『ハヌワグネ時計工場』のドゥニン工場長の紹介状ですか? ….しお待ち
下さい、上の者にお伝えしてきます…」

ペパーンチは.し困惑したような表情で家の中へ入っていった。しばらくす
るとペパーンチは他の男を連れて来て、どうぞ中の役所にお入り下さいと言っ
た。柵の脇を通って進もうとするとこう言われた。

「あっ、お連れの馬はご遠慮下さい」




玄関に入って2つの扉を潜ると、カウンターに数人の役人が座っていて奥で
他の人達が働いていた。ブロロロロ…と鳴った電話を取り、対.に.じている
ワイシャツとネクタイとスーツ姿の男性がいた。どうやらツアー会社からの電
話らしい。1人の女性が文字を印刷した紙束を隣の部屋から持ってきて役人の
机に1枚1枚置いていって右の部屋に入っていった。僕達を連れてきた2人の
役人も、

「.々お待ちください」

と告げてカウンター前の右の扉から仕事場へ入っていって自分のデスクから
ボールペンと書類と判子を取り出して何かサインをしてカウンター前にやって
来た。前に進むと紹介状を広げて差し出した。ペパーンチはメガネを上げて眉
を寄せて首を軽く左右に動かしながら末文を流し読みした。暫くしてもう一度
.々お待ちくださいと言うとペンを胸ポケットから取り出してバインダーに挟
まった紙の上にデスクの上に載った日付時計を見て細かく詳細を書き込んだ。
バインダーの上でペンに蓋をした彼は、

「よし」

と頷いてバインダーを脇に挟めペンをポケットにしまい、歩いてくる時に脇
から手に持ち替えた。

「2階のデダロンズ町長の部屋に行きましょう」



金縁の手摺りの階段を上って町長の部屋に入った。部屋の中は骨董品、おそ
らくは「ビチュアンゼ」か旅行先の国で購入したらしきものでかなり溢れてい
た。デダロンズは比較的古い椅子に座っていた。体格の太った彼はいかにも性
格が悪そうだった。

「うん? 何か用かね? また部外者を市役所に上がらせたのか。まともな者
なら大歓迎するよ。遅い実が入ってきたな。何だ? こいつらは『ビチュアン
ゼ』の大学の学生か何かか?」

「いいえ、違います。旅の者です」
「なら身分の高い貴族の子供だろ。『ビザジズドー』か『ホケメダン』の土地
持ちの名門か?」

「それも違います!! .の『ハヌワグネ時計工場』のドゥニン工場長から紹
介状を預かった者達です」

「おぉ! それは末当か!?」

デダロンズの目の色が変わった。

「工場長のおいのノェップが盗賊団に関与して死んだそうじゃないか。事件の
真相は掴めたのかい? うちの警察を送ったが盗賊団の逮捕には至っていない。
ドゥニンは何と申していた?」


僕はどちらの話題にも興味がない表情で答えた。

「事件があった早朝にハヌワグネを発ってしまったので、詳しいことはあまり
分かりません」

「あぁ、そうなのか」

デダロンズはすぐに興味を失った。

「この方達に滞在許可書を渡してもらえませんでしょうか? 今日泊まる宿も
まだ決まっていないようですし」

「よかろう。1.紹介状を渡してくれ。ここで発行してやる」
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史