ジェスカ ラ フィン
.で初日の出だと勘違いをして体を起こしてしまった。頭を起こすと渓谷の影
から僕の影が飛び出した。僕は旅人やソフサラコマやスキャルを見回した。そ
れから1時間余りしてベーリパトゥとソフサラコマが起きると、顔を洗いに行
こうよと誘った。鍋に水を汲んできて野菜のスープを作り、ベーリパトゥの分
けてくれたパンを食べた。
「ここから先には小さな林と、『ダギラメの谷』があります。旅を頑張って続
けて下さい」
ベーリパトゥは僕達に笑みを零した。
朝ご飯を済ませた後、ウィズウィングルに乗り僕の前にソフサラコマを乗せ、
ベーリパトゥとスキャルと別れた。
4 ドドルーンの町
空は晴れから曇りに変わって、気温はちょうど良かった。ウィズウィングル
が陽気に蹄を鳴らしてパカパカと歩いているのを数人のすれ違った通行実が不
思議そうに見ていた。何も話さずにしばらく進んでいると、左のカーブの先に
小さな林があった。
林を抜けると前にぽっかりと大きな穴が開いている所があった。手綱を視界
の前進に合わせてゆっくりと引いた。1つの道はそのまま野原を突き進んで山
と山の間を駆け上がっていったが、もうひとつの道は円状に緩やかに赤茶色の
壁を下に曲がっていて大きな谷底に飲み込まれていた。風が.し出てきて、僕
の前髪を靡かせた。
「で、どうする? 谷に寄ってくかい? ドゥニンの話には出てここなかった
けどさ」
「うーん、僕はこのまま『ドドルーンの町』へ行ったほうがいいと思うんです
けどねぇ」
ソフサラコマの発案にウィズウィングルはそう答えた。
僕は革の手綱の擦れているところを何度も触りながら言った。
「『ドドルーンの町』まで行くのには制限がないし、どんな人達が住んでいる
のか楽しみだから行ってみようよ」
「うん。そうだな。ちょっくら行ってみようか」
「ドドルーンの町」へと続く道から外れて小石がたくさん埋まった道を進ん
だ。谷の中の小さな集落の家々から、煙が立ち昇っているのが見えた。一度立
ち止まってはためく風の音と谷の中から上がってくる突風を聞いた。ウィズウ
ィングルのお腹をぽん、と足で叩いて坂を下りていった。大きなカーブが下の
集落まで続き、螺旋状になっていた。よくこんなところに集落をつくることが
できたなぁ、と思った。途中、大きく岩の壁をトラバースした。安全な狭路だ
と思ったが、ウィズウィングルは小股になって慎重に歩を進めていた。谷の上
には白い太陽が上っていた。ウィズウィングルが蹴った小石が崖から落ちてい
った。半分ぐらいまで進んだところで、集落の住居の外で洗濯をしている男性
が僕達の存在に気付いた。彼は烏.子と直衣を着ていて黒のブーツを履いてい
た。坂道を3周して降りてくると、男性は駆けてきて挨拶をしてきた。
「いらっしゃいませ!! ようこそおいで下さいました!! 私は『ダギラメ
の谷』の住人のエニヨンタというものです!! あなた方は旅の方ですか?」
「えぇ。『ドドルーンの町』へ向かう途中にちょっと寄ってみたんです。どう
やら此処に住んでいる人達は他の所に住んでいる人達と服装や住まいが.し違
うようですね。『ドドルーンの町』との交流はないんですか?」
「いいえ、私達は音の民の子孫なんですよ。古来、太古の神々を祀る宮殿で、
受け継がれ形を変えてきた楽器を守り吹き続けていたんです。昔から船を使っ
て他の島々と交流をしていましたが、現在も2年に一度、この世界を作った神
様を祭り拝み続けている『キササパルス』という国へ出向いて、祭の儀式の際
に神の社で演奏するんです。今は交通も発達して高速道路を渡って『キササパ
ルス』へ向かうんですが。古くから、?ソンパラメードの大祭?と呼ばれてい
ます。今年がそのすごい催しが開かれる年なんです。今、その祭に向けての練
習の真っ最中です。世界中から人々がその大祭にやって来て、交流をします。
我々にとっても、他の国の方々にとっても、とても大切な行事なんですよ」
ソフサラコマはウィズウィングルから飛び降りてエニヨンタの顔を見た。
「へぇー、そんなすごい行事があるのかー。『キササパルス』って言ったら、
宗教の盛んな都市で有名なところだろ? 街中に教会や大聖堂や修道院が立ち
並んで3拝に来る人がごまんといるのかなぁ?」
「えぇ。?ソンパラメードの大祭?の日以外でも街には観光実が溢れ返り、
様々な民族が様々な宗教を学んでいます。町の中に川が流れ、沐浴をする人達
は夜の密かな楽しみであるパブのショーに出演し、また別の顔を見せます。街
を訪れる人達は比較的穏やかな人が多いです。というよりも、『キササパルス』
のその神秘的な雰囲気に訪れた人々は心を洗われ、平常心を取り戻すことがで
きるからじゃないでしょうか。私達は『キササパルス』に行くとき、いつもそ
う思います」
エニヨンタは朗らかな顔で答えた。
「きちっ、と区間に教会や聖堂が分けられていて、碁盤のような造りになって
いるんですよ。お爺さんから聞いたことがある。『ビザジズドー』や『ホケメ
ダン』のことの方が詳しいんですがね」
「そちらの方でも出張でたまに演奏しに行くことがあります。両方とも素晴ら
しい国なんですが、中でも『ホケメダン』の豪華さといったらありませんね。
夜と昼の区別がない国、と言われていて、カジノの入り口には巨大なアーチの
看板が延々と続き、庭と呼ばれているアーチゲートの両側には、遊園地とテー
マパークがぎっしりと埋まってるんです。夜にはひきりっなしに花火が打ち上
げられていて、ピエロの乗ったグライダーや気球船が飛び交っています。辺り
には夢のような音楽が鳴り続け、何0色の光のレーザーが広大な芝生を照らし
続けます。『ホケメダン』だからこそできるのだと思います。大玉に乗ったピ
エロが散らばった動物達をその芝生に誘導し、野外サーカスを始めます。子供
達は動物達と触れ合い、時間と制限のないその国で一生に残る思い出を作って
いくのです」
「『ホケメダン』の財団が設立した劇団はご存知ですか?」
「もちろん知っていますよ。カジノがある地区とはまた違った地区にあるので
すが、演劇の町という地区の中に、数え切れない数の劇場の1つで、最も有名
な劇団の所有するホールです。その1つの劇場で最高の観実数と収益を稼いだ
者は晴れて映画デビューすることができるのです。映画館は全部で6ヶ所ある
地区に数多く点在しております。全ての映画館で20末連続主演映画の動員数
を満席にした者だけ、中心地区にある記念フォーラムで世界の偉人の殿堂入り
を祝う時だけに行われる、ホケメダン映画大賞を受賞することができるのです」
「『ホケメダン』って、やっぱりそんなにすごいところだったのか!!」
ソフサラコマは目を丸くしてまた驚いた。
「ソフサラコマも、才能があるから、『ホケメダン』に行ったら活躍できるか
もよ」
僕は笑って言った。
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史