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ジェスカ ラ フィン

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ウィズウィングルは瞳を潤ませてソフサラコマを乗せたままその場に泣き崩
れた。意外と綺麗な声で泣くもんだなと金だらいを手で囲って腹に軽く押さえ
つけてその様子を眺めていた。不幸な過去を背負っているのは分嘗ていた。ソ
フサラコマは、そういう境遇のウィズウィングルをなんとか元気づけたくてあ
んな1芝居を打ったのだろう。

僕もウィズウィングルを元気づけたくなった。

「さぁ、顔を上げて。顎鬚を剃ってあげるよ」

ソフサラコマは地面に降り、ウィズウィングルの鬣を優しく撫でた。

「ほら、立てよ。そんな落ち込んでたら綺麗に髭が剃れないじゃないか? 髭
さえ整えればお前、男前だぞ」

ウィズウィングルは目を輝かせて僕の顔を見つめた。

「何? 末当か? 末当に男前か?」

ウィズウィングルは鼻息を荒くし、それでも呼吸が足りなくなって口で息を
していた。

「あぁ。男前だよ。もし僕等と一緒について来たらきっといいお嫁さんがもら
えるぜ」

「ほ、末当か? 俺みたいなろくに教育を受けていない奴でもお嫁さんがもら
えのか?」

「勿論だよ」

僕は言った。

「こんな寂しい所にいつまでも居る必要はない」

「有り難う!!」

ウィズウィングルは僕の前まで体を伸ばし、また泣き崩れてしまった。

「いいかげん顔を上げろよ。僕達はこれからお前の友達だぜ。必ずお前の命は
守ってやるよ」

「髭を剃り終わったら出発しよう。もう一度小屋に行って布袋と手綱と鞍を持
ってくるよ」



「お前らが最初の友達さ」

つるつるの顎になったウィズウィングルは僕等を乗せ、森を出た。

「俺だってこのお兄さんが最初の友達だぜ? 初めて出会った奴が最初の友達」

僕の前に座ったソフサラコマはウィズウィングルと交互に見比べて言った。
ウィズウィングルの腹と太股の間に、肉と手紙の入った布袋と、ウィズウィン
グルの草が入った布袋を吊るしてあった。

「友達に手綱は厳しいよな」

「構わないぜ」


ウィズウィングルは鼻を啜った。

「爺さんが生きている時に使っていた手綱こそ、俺の最高の宝物なんだ」



草原に出て、右に大きく曲がる土の道を進み、銀嶺を見ながら蝶の飛び交う
道沿いの花畑で僕は下りて、ソフサラコマとウィズウィングルに花の簪と、花
飾りを作ってあげた。



長い坂道を下っていくと、道端で焚き火をしている旅人がいた。彼はストロ
ーハットを布袋の前に置いていた。栗色のマントと襟巻きをしていて、.子に
はミニサイズのラッパが刺さっていててっぺんには宝石の首輪に、足輪をして
いる烏が止まっていた。

「僕の名前は、ベーリパトゥといいます。よろしく」

「俺の名前はスキャルというんだよろしく」

「よろしく」

と僕は言った。

僕はウィズウィングルから下りてここで一緒に寝泊りしてもよろしいでしよ
うか? と尋ねてみた。するとベーリパトゥは、あぁいいよ、と答えてくれた。
ベーリパトゥに鹿の肉の包みを渡して焼いてもらえるように頼んだ。



夕焼けの空がきれいだった。スキャルは渓谷を上がり赤焼けた大陸を羽ばた
いた。肉が焼ける頃には星のきれいな空になっていた。スキャルが薬草を足に
挟んで帰ってきた。「何をしていたの?」

僕はスキャルに訊ねた。

「いやぁ、翼の調子が悪いから森まで行ってきて摘んで来たよ。あんたどこか
悪いところはないかい?」

「体の調子が悪くてね。できればその薬草を分けてくれないかなぁ?」

「胃にも効くぜ。効力がある。あとで煮詰めて飲んでみなよ」



夜になるとソフサラコマの耳が片方だけ外側に折れた。

「どうしたんだ?」

「耳を立てているのが疲れたんだ。昨日、1昨日は無理をしていた。ずっと黙
っていようと思っていた」

ウィズウィングルは一度戻って小屋から持ってきた布袋に入れた、途中野原
で摘んできた草をソフサラコマから布袋から出してもらっていた。岩陰から虫
の移動する音と鳴き声が聞こえてきた。煙の上る真っ赤な焚き火の傍に僕達は
いた。ベーリパトゥはストローキャップの付いた酒瓶を飲み焚き火の調節をし


ていた。寒いのに見たこともないデザインの脹脛まである網状の靴を履いてい
た。

ソフサラコマはそれを見てベーリパトゥに訊ねた。

「靴下は持ってないの?」

「洗ったばかりだから履くのがもったいないのさ」

彼はあぐらを崩し片足を立てた状態で座っていた。灰色の髭をたっぷりと蓄
えているのに髭はふさふさとしていた。旅人なのに小奇麗な感じで汚い印象は
無かった。

「今朝温泉にひさびさに入りまして。緑色の風呂でした。若返りましたよ」

「何処にそんなものがありましたか?」

「『ドドルーン』の人が教えてくれたのですよ。貴方方がこれから向かう林を
抜けて荷道を右に曲がっていくと岩に囲まれた名も無き温泉がありまして。極
楽でしたよ」



こんがり焼ける鹿の肉をじっと見つめていると、

「さぁ、どうぞ」

と手を伸ばしたベーリパトゥから鹿の肉を受け取った。僕はその肉をウィズ
ウィングルにあげた。

ウィズウィングルは、

「鹿さん、めんぼくない」

と泣き真似をして食べていた。ソフサラコマにも皿にナイフで小さく分けら
れた鹿の肉が渡された。

「一流の兎は人参しか食べない」

ソフサラコマは我儘を言った。もっと細かく旅人が千切ると機嫌が良くなり
食べた。スキャルが肉を食べ終わるとベーリパトゥは川から水を汲んできて、
スープを作った。

ソフサラコマは、

「僕もパセリを採ってこようと考えたけど。昨日も1昨日も食べたし」

と肉を嫌がった言い訳をした。ウィズウィングルはお腹が苦しいと寝転んで
背中を掻いていた。ソフサラコマは突然爪楊枝が欲しいと言った。ソフサラコ
マはベーリパトゥが木の枝を細く削って作った爪楊枝を両足で挟んで2末の前
歯の隙間を両手で微調整しながら掃除した。ソフサラコマは玉葱を残した。最
後に木の枝についた食べ物の糟を丁寧に舐めてきれいにした。

僕はスキャルから薬草をもらって新しい水を汲んできて煮詰めてその汁を飲
んだ。包丁と俎板を川で洗い終えて帰ってくると、ソフサラコマとウィズウィ
ングルとスキャルはベーリパトゥの地図を広げていた。ベーリパトゥの髭のボ


リュームがさっき見た時よりも減っているように見えた。ウィズウィングルの
悌毛を思い出した。聞くと気候によって髭が膨らんだりしぼんだりするのだと
答えた。まだウィズウィングルはさっきの鹿の肉の残りを引き千切って食べて
いた。そして奥歯に肉が詰まったと喚いてじたばたした。ソフサラコマが飛び
跳ねてウィズウィングルをケラケラと笑った。僕もこの近辺の地方の地図を見
た。ソフサラコマが古びた地図の端っこにつま先を置き、ウィズウィングルが
上から覗き込んできた。.し明るい空は、冷たい風が走っていた。



夢から.めると太陽が東から昇ってきて低い渓谷は影に入っていた。僕は錯
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史