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ジェスカ ラ フィン

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「昨日の騒ぎ、大丈夫だったんですか? 何でもノェップさんと給仕があなた
達を殺そうとしたって。盗賊団の手下もいたんですよね? お怪我、大したこ
となかったですか?」

と訊いてきた。

すると僕は、

「いいえ、大したことありませんでしたよ。お陰で1睡もできませんでしたけ
ど。ノェップさんと女性の方は死んでしまったのですが、手下は逃げたんです。
おそらく『ドドルーンの町』の方だったと思うんですが」

と答えた。


「さぁ、そのような情報は『ドドルーンの町』からも、『ハヌワグネ時計工場』
からも入ってきてないんですが。ここ『タタ通行所』には新聞が来なくてです
ね、最新のニュースは限られた範囲でしか分からないんですよ。.の『ヤタラ
ンタ通行所』にもここの通行所にも、地下に時計工場から電線が伸びていて電
話は使えるんですがね。ともかくあなた方が無事で良かった」

「ここから先には何がありますか?」

僕の肩に飛び乗ったソフサラコマは尋ねた。

「渓谷を流れる川と、森があります」

別の若い男は答えた。

「生前のノェップさんが、森の中に、亡くなった老人の馬が住んでいると言っ
ていたんですが。なんでも高価な馬で、盗賊団に狙われているらしいのです」

「そのような話は聞いたことがないですけどねぇ、もし末当だったら私共に連
絡をして時計工場の人間に頼んで馬を引き取ってくれる安全な場所を探しまし
ょうよ」

「そうですね。ありがとうございました」

僕達はお礼を言った。通行所を過ぎると、右の小屋で仕事をしていた若者も
一緒に外に出てきて、僕達に手を振ってくれた。



小岩が所々に埋まった、曲がりくねった道を行くと幅の広い川の後ろに森が
聳えていた。湿って黒っぽくなった橋を渡ってその中に入った。

「お前が聞いた馬っていうのは森の何処にいるんだろうな?」

ソフサラコマが言った。虫の音が遠くの木々から聞こえているのではなくて、
近くから聞こえているような気がした。地面には腐葉土がたっぷりと.き詰め
られていた。道の途中、ザッ、ザッ、という素早い動きをした影が目の前を右
から左へ横切り茂みの中へ逃げた。

狐のズブンだ!!

「追いかけよう!」

僕達は進むのを中断して雑草を飛び越えて、茂みの中へ入ってズブンの後を
追いかけた。次々と降りかかる木々の枝葉を掻き分けてズブンの後をついて行
った。息が切れそうになるぐらい走り続けて草むらを抜けると、小屋があり厩
には白馬がいた。慌てて急ブレーキをかけて馬の前で止まると、ソフサラコマ
が僕の足に激突して、馬の胸に頭をぶつけてしまった。僕は、

「いててて…」

と首を押さえて立ち上がると、じっと見下ろしていた馬は口に力を入れずに
顎の筋肉を縮めた。


「…、お、おいどんに頭をぶつけたけど大丈夫か? まぁ大したことがなけれ
ばいいけど……」

凛々しい顔つきで白馬は僕の顔を覗き込むようにして口を開いた。

ソフサラコマは顔をぶんぶんと振って正気を戻した。

「うわっ!! お前はノェップが言っていた例の高級馬か? 開けたところに
いきなりいやがったよ!!」

白馬はソフサラコマを小馬鹿にするような視線で見つめ、そしてあざけ笑う
ような口調でこう答えた。

「下等ごときの兎が。私に質問をするなどもってのほかだ!! 俺様を誰だと
心得る!! 私の名は、?ウィズウィングル?様だ!!」

「良血のプリンス、って言いたいんだろ? そんな気がするもの」

僕はウィズウィングルの代わりに答えた。

するとウィズウィングルは急に偉ぶった。

「ははは、そうだ! 俺様は『娯楽国ホケメダン』1の良血馬だ!」

尻尾の土を丁寧に払って下を向いて目を瞑っていたソフサラコマは突然脅し
の声になった。

「『ターピスの小島の町』で迷子になって泣きに泣いたお前がか?」

「な、何だと?!」

ウィズウィングルは目を真ん丸くしてたじろいだ。

「俺がいつ町で迷子になったって言ってるんだよ? 俺はただずっと、『ジャ
トジャス遺跡』で監禁、ハッ……」

「ほら言わんこっちゃねぇ!!」

ソフサラコマはざまぁみろ、と言わんばかりにウィズウィングルに言い返し
た。

「な、何言ってる?…俺はこれから『商業国コラダングス』で産まれた女の子
とデートなん…」

ソフサラコマは僕の頭に上って、冷や汗を流して震え上がっているウィズウ
ィングルの顎を見下ろしてニヤニヤとしてゆっくり擦った。

「…でもよ、ウィズウィングル、顎の髭がこんなにも伸びてるぜ」

ソフサラコマの指摘でウィズウィングルは途端にあたふたした。

「ハハハ…、だ、だいぶ髭が伸びてるんだ…。よ、よかったら剃ってくれない
かな?…」

「なぁ、剃ってあげようよ?」

僕はソフサラコマに勧められた。

「あぁ」

僕は視線を上げて頭上にいるソフサラコマと目を合わせた。




僕は厩の横にある小屋の中に入り、埃を払いながら金だらいと赤く錆びた剃
刀を持ってきた。小屋の中は蜘蛛の巣でいっぱいだった。落とせる蜘蛛の巣だ
け、落とした。

厩の外に出ると、僕達は川の流れる場所まで歩いた。

「しかしさぁ、どうやって水を調達してたんだよ?」

ソフサラコマはいつの間にかウィズウィングルの背中に腰を降ろし、首を下
げて顔を青くし、へこへこしているウィズウィングルに尋問していた。

「毎日此処まで歩いて来て飲みに来ていたのさ」

ウィズウィングルは首をソフサラコマの方へ向け、落ち込んだ様子で暴露し
た。

「爺さんはいつ死んだんだ?」

突拍子もなくソフサラコマは尋ねた。

「あまりそういう話をしないでくれよ…あれはいつの頃だったっけなぁ…」

ウィズウィングルは空を見上げ、寂しい表情をして目をしょぼつかせた。

「随分前のことだったから忘れたよ…」

「おいおい、いくら腹が立ってもそういうことは訊くもんじゃないぜ」

僕はソフサラコマを制した。

「うるせぇやい!! お前までこいつの肩持つのかよ? はん?」

僕の襟を掴んだソフサラコマはやくざのようだった。

「これ以上図に乗るのはもうやめろよ! 馬鹿野郎!!」

「えぇい! 腹立つんだコノヤロー!!」

ソフサラコマはウィズウィングルの上でもうめちゃくちゃだった。



「…爺さんに髭を剃ってもらってたんだ」

僕とソフサラコマのケンカに割って入ってきたウィズウィングルは前脚で土
を穿りながら呟いた。

「爺さんにとって俺だけがかけがえのない存在だったから…財産とか形見って
いうわけではなく…」

ウィズウィングルの背中に乗っているソフサラコマは、ウィズウィングルの
首をポンポン、と軽く叩いて客めた。

「僕が言い過ぎただけだよ、ノェップという悪い男にもこう言ったことがある。
一度騙されたことがあるから、警戒してたのさ。あの時は凶で今回は吉。悪か
ったよ。俺はお前を冷やかし過ぎた」

「分かってくれるのかい…」

作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史