ジェスカ ラ フィン
たんだ。お前等の棟梁ならもう調べ尽くしていると思うけどな。で、どうだっ
たんだ? 『浮遊王国ルダルス』に行く為にはどうすればよかったんだ? 何
か必要なのか? ?黄金虫のリギー?でも分からないのか? …あぁ、あいつ
らのことか? いい宝物を持ってるじゃねぇか? リギーなんかよりもよ、
『ホケメダン』の地下牢のテレビ局のオーナーに売っちまえばかなりすごい額
の報酬がもらえるぜ? 明日の夜にあのムカつくソフサラコマっていう兎とエ
クアクスっていう野郎も一緒に半殺しにして、その馬と一緒にオーナーに売り
さばいてやる」
そこまで僕は聞くと音を立てずに部屋を出て階段を上がり、寝.でソフサラ
コマを起こした。
3 ハヌワグネ時計工場 三
「…今日の早朝に此処を出よう」
「話は聞いたよ、ノェップがそんな奴だったなんて。確.に殺されちゃうよ」
「ノェップに疑われたらまずい。ドゥニンになんとか朝早く、通行所の手形と
紹介状をもらうより他ないよ」
「彼が天上世界の話か…。多分『浮遊王国ルダルス』のことを言っているんだ
と思うんだけど。そういう風に呼ばれているのか。やっぱり奴は全部知ってた
んだ。多分『ルダルス』にはお宝がザックザックあると思ってるんだよ、きっ
と」
「そのことも重要だけど、早くこの時計工場を出ないと僕達は殺されちゃうん
だぜ?」
「いや。それは違うよ」
ソフサラコマは目を閉じて片手を顔の前で振った。
「君だって疑われたらまずい、って言っただろ? 彼は『ドドルーンの町』や
森の中で待機している仲間達を呼んで、今日の夜に屋.にやって来るだろう。
僕達が明日の朝、殺されていても、?強盗が入った、盗賊団だ?、って言って
『ドドルーン』の警察に届ければいい。ドゥニンは彼の末当の顔を知らない。
ドゥニン自身はいい人だと思うけど、いざとなったら僕達よりも彼のことを信
用するよ」
「じゃあどうするんだよ?」
「日中はじっとしていて、夜が勝負だ。君は昨日、旧時計工場の塔で自分を試
しただろ? 君には力があるんだ。まだ末当の力に目.めていないけど、きっ
とこの難関をクリアできると思うよ」
朝、太陽が.の空に差しかかろうとする時に僕は目を.ました。ソフサラコ
マはシーツを蹴って、まだグースカ寝ていた。洗濯してもらった衣服を取りに
1階へ降りて出会った人に挨拶をして、食堂で朝食を取った。ドゥニンと食卓
で会い、もう1日お世話になります、と頭を下げた。あぁ、ゆっくりしていっ
てくれ、と、トーストにバターを塗っていたドゥニンは、席を立つ僕に笑顔を
零した。洗濯場で衣服を受け取って部屋に戻ると、ソフサラコマが今度は僕が
ご飯を食べてくる、とベッドから飛び降りて出て行った。しばらくするとソフ
サラコマは帰ってきて、椅子に座ると食卓から持って来たナプキンで丁寧に口
を拭いた。
「夜のことだけど…散歩でもしないかい? 対決は広いところでやったほうが
いいだろう?」
僕はソフサラコマに訊いてみた。
「ノェップさんには会ったかい?」
「いいや」
ソフサラコマは首を振った。
「女の給仕に聞いてみたけど、?今日は時計工場の方でグループのリーダーの
作業員の方と打ち合わせがあるそうです?、って言っていたよ。おそらく作業
員の中にもグルがいるんだ。トラックで品物を運ぶ人間の中に情報を彼に伝え
てる奴らもいる。決戦だよ。彼1人で殺しにやって来るかもしれない。?リギ
ー?、っていう盗賊団のメンバーが暗殺に来るかもしれない。さっき袋の中を
見たら携帯電話の照明が消えていたよ。どうして?」
「きっと電池が切れたんだよ、この世界じゃ元々使い物にならないだろうし。
別にいいよ」
「とにかくゆっくり過ごそうよ」
とソフサラコマは言った。
夜になるとさすがにノェップに命を狙われているということを考えなくなっ
てきた。朝も昼も彼は工場の食堂でご飯を食べていた。そして夕食の頃に屋.
に帰ってきた。ノェップは僕達が宿泊していることも、存在していることも忘
れてるようだった。食卓に置いた方眼紙を広げてぶつぶつ数字を唱えていた。
「僕達がいない時はいつもこうなんですか?」
「あぁ。ノェップは一度仕事のことを考え出したら物音がまるで聞こえないん
だ。すごい集中力の持ち主だよ」
「すごいですね。末当に今日の夜が楽しみだ」
ソフサラコマは後半の言葉を隣にいる僕だけに聞こえるように呟いた。
月に棚引いた雲が風に流されて遠く彼方に泳いでいった。水差しと逆さにし
たコップが僅かに月の光に照らされて反射していた。ソフサラコマはベッドか
ら降りて床のカーペットに座っていた。僕はソフサラコマの耳を見ていた。
月が雲から完全に出てくると、突然1匹の生き物が屋根から降りてきて部屋
のガラスを破った。生き物は、
「俺は狐のズブンだ!!」
と叫んだ。物音が屋.中に響き渡って、ノェップの、
「強盗だー!」
という声が聞こえると、僕達は身構えて白い羽のついたストローハットを被
ったズブンが短剣を鞘から抜き取ってソフサラコマに攻撃を仕掛けてきた。案
の定だった。ドアを開けてモップで叩き殺そうとしてきたキノストツラ以外、
屋.の他の部屋から出てくる者は誰もいなかった。
ソフサラコマは狐のズブンの短剣を横に飛び退いて避けた。僕はキノストツ
ラの攻撃を斜め後ろのソフサラコマのベッドへジャンプしてかわした。ノェッ
プがなぜ声を張り上げたのに外に出てこないのか分からなかった。一度体の動
きを止めソフサラコマを睨んでいたズブンは僕を目の端で見ると、手を伸ばし
て短剣を突き出してきた。僕はなんとかかわすと、ブレーキをかけたズブンは
飛び上がって頭の上から不思議に自然と伸びた長剣を腕に力を入れて振り下ろ
した。僕は後ろに下がったが衣服を裂けられてしまった。テーブルの横の壁へ
と追い詰められた僕は1回転して切りつけてくるズブンの顔を、風を切る長剣
を見送った後に殴った。勢いで僕のベッドに吹っ飛んで壁に体を打ったズブン
は起き上がり頭を振ってキノストツラの攻撃を避けているソフサラコマの脇腹
を短剣で貫こうとした。ソフサラコマはズブンの方を見てタイミングを計って
飛び上がりキノストツラの腹に頭突きをした。空中の上でバック転をしたソフ
サラコマは倒れていくキノストツラの顔にさらに蹴りを入れて、そこから体勢
を変えると同じように下から飛び上がってきたズブンの剣を避けて顔に拳を入
れた。床に倒れたキノストツラは気を失い、剣を放したズブンはよろめきなが
ら立ち上がり、地面に投げ出された剣を素早く掴んで、破けた窓の桟に飛び乗
って外へ逃げた。窓の前に立って下の庭を見ると、ズブンはジャンプを繰り返
しながら、屋.の垣根を乗り越えて渓谷の岩場に姿を消した。無意識の内にズ
ブンの逃げた方向を見ていると、ドタドタと階段を上がってくる音が聞こえて
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史