ジェスカ ラ フィン
は頭にそれを嵌めると、髪の紐が切れた。もう一度結び直し、石の枕がある方
向に横になって、天体望遠鏡の装飾を下ろした。宇宙が見えた。天蓋を見ると、
太古の「ダワ記」の神話の動物達が星空に星座となって現れた。星座は動いて
いるようであった。真ん中の宇宙が空いていた。何かが入るのか。天井の開い
た空からは、太陽が照り付けていた。装飾のギザギザが、右目の染みに影の針
を指した。すると、遠く「フェザ山脈」から鐘が鳴った。空から光が「テンペ
ライモンドの神殿」に突き刺して、その光の筒の中から、妖精が現れた。
「ちょうど3時です。『テンペライモンドの神殿の呪い』は、そのあなたの右
目の染みの呪いと共に消えました。私の名は、ソマゼと言います」
ソマゼは言った。
「3時になると、この、背中の影の羽が、広がり、あなた方を天上世界へお連
れするのです。是非『文明国スワンダ』へ、お越し下さい。デゾーの結界のせ
いで、『文明国スワンダ』は、重力を支配されて、自由に動くことができませ
ん。『固定』されているのです。『アッペランメの重力』のせいで。デゾーの
意思で、『ライファモンの神殿』の『シュレクトムの祭壇』は自由に開いたり
閉じたりします。開くと、重力が逆さになり、閉じると、重力が元に戻ります。
さぁ私について来て下さい」
ソマゼは僕達に言った。僕達は、ソフサラコマの遺体を抱いて、空へ上がっ
た。光が消えると、懐かしき「マタハラーの神殿」に出た。1番初めに来た時
と変わらなかった。命の時間を計る天秤があり、水槽があった。外には、雲の
海と空の壁があった。しかし、「ヨークナッドの瓶壁」は高く天まで伸びてい
た。どこまで伸びているのだろう。外に出ると、そこは見慣れた「文明国スワ
ンダ」だった。ソンハは命の時間のペンダントを持っていなかったが、
「.しぐらい命の時間が減ったっていいんです。ピネイル王女に会えない時間
の方が愛しいですから」
とソンハは言った。何も無いまっ平らな鳥羽色の岩盤を歩いて行くと、「チ
ャンダンク図書館」は無くなっていて、遥か彼方に「トヤランズ城」が見えて
来た。僕は「トヤランズ城の扉」を押した。立派な庭園が以前とは違って在っ
た。
「ケッティのハンサメとレオポンのチンギューガがお造りになったものです。
お1人で『ヘーミッド』の民の平和を願っているピネイル王女を元気付けよう
と。さぁ、この奥です。お入り下さい」
ソマゼは言って、僕達は扉の奥の中へ入った。扉の奥には、水の流れる彫刻
に守られて、ピネイル女王が玉座に座って居た。
「ようこそいらっしゃいました。私は『トヤランズ城』の王女、ピネイルと申
します。あなた方のことをずっとお待ちにしておりました」
ピネイル王女がそう言うと、ケッティのハンサメとレオポンのチンギューガ
が姿を見せた。
「この者達を使いに出したのです。『ヘーミッドは』ひどく荒れているようで
すね。この者達は、一度しか、地上に下りることができないのです」
ピネイル王女は言った。
「大変申し訳ありませんでした。心からあなたが来ることをお待ちしておりま
した。あの時は、無意識の内に、身の危険を感じた為、此処、『文明国スワン
ダ』に戻されたのでした。私達は、あなた方のジョイントを感じておりました」
レオポンのチンギューガは言った。
「…エクアクスさん以外、皆死んでしまったのですね…タイリュー王の計らい
で、御仲間さん達が生き返ったのは知っていましたが、我々では、御仲間さん
達の命はどうすることもできませんでした。ただ、『マタハラーの神殿』で、
命の時間が減っていくのをじっと見ているしかありませんでした…」
ケッティのハンサメは泣きながら言った。僕は、「トヤランズ城」の外の景
色を見た。
「…ソフサラコマの遺体しか残らなかったのです。襤褸布で包んでありますけ
ど。ソフサラコマが、死の間際に僕に告げた、『フェダリダダマスの水瓶』の
使い道が、『パチャラグルの流転』を食い止めること、『センファビルの天の
川』に行ける、ということでしたけれど、この『フェダリダダマス水瓶』に、
『ベパー・ランゼの崖』の、『アパプルードの海水』を満たし、此処、『文明
国スワンダ』の端で流さなきゃならないのですか?」
僕は皆に訊ね、続けてこう訊いた。
「此処に『シッグベジナの鋏』があると。そして、この『パパロメのぼろ布』
に、『ソピョーゾギャニアンの宇宙』の切れ端をベパー・ランセの崖にある、
『アパプルードの海水』に沈んでいる、『シュンプレンナの宇宙の糸』を、
『地底世界ソロンペパール』の『ジャンガズガンズの癌の森』の猿のトッピラ
ーが持っている、『メッタラーの針』に通して、パッチワークのように縫い付
け、『バンダラ天文所』に向かい、『レッポスメントの海溝』の奥底に沈んで
いる、『レピアトレモダルの流石』をくくり付け、『デッマの額縁』を通過さ
せ、巨大化させ、『テンピョーテイレンの宇宙』に張り付けるのですね?」
僕は今まで皆に言われたことを全て言った。
「それだけではありません」
ピネイル女王は言った。
「『センファビルの天の川』を作るまでが大変ですが、もう時間がありません。
此処で『シッグベジナの鋏』をお渡し致します。…恐らく、あなた方が下界に
下りて、『山脈連邦シャフキウ』を越えて、『ベパー・ランゼの崖』で『アパ
プルードの海水』と、『シュンプレンナの宇宙の糸』を上げる前に、ダズバグ
ルフ盗賊団は、『パパロメの間欠泉』の砂の噴水量を、『リッドホール』で科
学者の『ヘッゼ・ジターニ』を脅して、最大限まで上げるでしょう。そうなれ
ば、『ヘーミッド』の世界は終わりです。人々は、『ヒレンバの管』から『ソ
ンデワン』へ逃げて、リギーやデゾーに『アッペランメの重力』を変えられて、
人間や動物達を玩具のように『第2の星の砂』にするでしょう。とにかく、
『アパプルードの海水』を水袋に入れ、『シュンプレンナの宇宙の糸』を『ア
パプルードの海水』の中へ潜り、『シッグベジナの鋏』で適当な長さに切って、
此処『文明国スワンダ』へ持って来て下さい。『フェダリダダマスの水瓶』と、
ソフサラコマ御兄様の遺体はここに置いておいて下さい。もしかしたら、『セ
ンファビルの天の川』の『シンラーク』と『ホチョーチ』さんが、遺体のある
命を生き返らせる方法を知っているかもしれません。ソフサラコマ御兄様が生
き返る可能性はあります。私達は、此処から、ダズバグルフ盗賊団達の様子を
伺っています。一緒にお供できなくて申し訳ございません」
「分かりました。必ずや、『アパプルードの海水』と、『シュンプレンナの宇
宙の糸』を手に入れて、帰って来ます」
僕は言った。僕は、ピネイル女王から、「シッグベジナの鋏」を受け取って、
ソンハと共に「トヤランズ城」を出、北東の「バンダラ天文所」へ行き、「デ
ッマの額縁」の寸法を測った。
22 地底世界ソロンペパール
作品名:ジェスカ ラ フィン 作家名:丸山雅史