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transcendence

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向上心の為だったことにようやく気付くと、すぐに素直な自分を見つけられた
んだ。

背伸びをしなくなった心が、安心して僕の詩作を見守って居る。僕は詩作に
夢中となり、眠気など、眩暈など、詩作中に感じなくなり、無理矢理搾り出し
ていた憂鬱など、詩作の燃料にはならなくなった。置いてけぼりの何か─それ
は温泉卵のようにも映った─が、僕の影に塗れて地下鉄構内で蹲って居る。

しかしそれはやはり一時的なことであった。孤独と眠りは毎日僕の扉をノッ
クしてやって来るし、今、現実問題として季節は冬である。僕の人生には一度
も理想的な春などやって来ないであろう。僕にはやりたいことがきっと数え切
れない程在る。眠りが僕と僕の欲を断ち切ろうとしているのだ。薄い膜の張っ
たホットミルク、過ぎる女の顔。何も言葉が浮かばない時間の間は、境界線を
越えないように、幾つもの過去の事実を拾い集めて鏡の前で其れ等を考察する。

終わらない、素晴らしい唄を天才に創ってもらい、死ぬまで聴いて居たい。
そう、心を震わせるあの唄のような…。結局僕はこの世界でしか生きていくこ
とができないのだから。神様が居るのならば、この願いを叶えてくれません
か? 眠気の大陸を越えて、あの唄の歌詞に負けないような歌詞を書きたい。
恐竜の化石が此方に振り向く午前七時前の夜。

憎々しい男と女が僕のふきだしの中で飛び回っている。昼寝をさせる為に本
を読んで眠らせる母親の驚嘆。彼女の背後の冷蔵庫が人間の暗闇をじっと冷却
し続けるが、僕は自らの幸せを願うことは永遠にないだろう。憎々しい男を許
すことがずっと無いことと同じように。

深い湖の底に、具現化された「僕」が幾つも幾つも沈んで居る。釣り針を垂
らし、「僕」を釣り上げようとした瞬間、六月の伝統あるホテルのロビーの庭
に僕は立って居り、其処でタナトスに駆られるのだ。罪悪感の降り積もる頭の
中の異世界の灰色さ、レアチーズケーキの香り…。木製のタイタニック号は何
かの作用によって真っ二つに折れ、マッチに火を点けてアロマキャンドルに出
来過ぎた明かりが灯った。

何気ない電話での会話の最中に喪失感。死に際の死神の喉を潤わせ、一人都
会に出る僕。死に際の死神の吹いた泡が僕の喉の渇きを潤わした錯覚を起こし
た。世界に蓋をして色褪せた現実から失望感をもぎ取る。そして表皮を磨いた
後、がぶり、と食らい付く。

交通事故死は無い。僕の後頭部の熱は、今は平温のようだ。暖かい部屋での冷
たい溜息。暖炉の心の色の.が燃える音。僕は北国から猟銃を磨きながら変わ
ることのない冬が、流れていくことのない時間がやって来るのをじっと待って
居る。空虚な感情が世界で僕一人だけに、絶え間ない宇宙からの煌めきによっ
て瞬きを促すのだ。





 alignment



片方の暗闇が僕を吸い込む。宇宙は独りきりの猫の心のように冷たい。底の
無い其れは、神様の設計図無しでは創ることができない。電流の震動音が僕の
悔しさのぎざぎざを丸くする。大荒れの海原の黒い波が、僕の左の眼球の根元
を引っ張り、恐怖のどん底へと左肩の凝りと共に導いていく。

焦燥の汗、黒い正夢が今、実現した。何の為に生きて居るのか僕には分から
ない人達。心臓の震えがPCのキーボードに伝う。後悔先に立たず。梅肉の生々
しさ、三分時刻の遅れているPCのデジタル時計。全ては茫漠としている。僕
にはこの世界の人々の考えが分からない。でもきっと、僕に同調してくれる人
間が現れるはずだと願って居る、願うこの美しき夜空の下で。

踏切を越えた先に在る、確実な死、ぐちゃぐちゃになって吹き飛んだ.歳下
の女性を凝視せよ、僕達は錯覚の中で詩集を読み耽る。救い様が無い事柄等在
りはしないさ、しかし本当に全て時間が解決してくれるのだろうか? 僕は目
の前に居る人間達を屑共、と認識した。もう片方の暗闇が僕の負の感情を吸い
込んでくれたらいいのに…。

端正な顔の男が散歩していた青い公園。僕と吟遊詩人には「空気」という隔
たりがある。僕はある詩集の表紙の赤を思い出し、頬が火照ってしまった。龍
をイメージした橋を渡っている時、僕は立ち止まって真下の池を見下ろし、鯉
が遊泳している姿を見て、湿度、体感気温、そして眼球の重力を順々に推測し
た。僕は.りの強い他人と出会い、自分の詩集についてひどく的の外れた批評
を貰った。ごみ箱に捨てた荒い段ボールに書いたような小説を、僕の場合、誰
が拾ってくれるだろうか?

星が三つ輝いて居て、百回見上げたら星が五つに増えて瞬いて居た。太陽は
白い。宇宙の内臓のような星雲は、僕にとって到底理解し難く、黒いパレット
にばら撒いた諸々の絵の具のようにしか見えなかった。薬缶が食器とぶつかり
合い、湯気をモクモクと鼻から噴き出していた。ハーモニー…。

時間という人間が創り出した概念は結局、世界が果てても太陽の寿命が続く
まで、いや、太陽電池で動く時計が止まるまで、いや、人類は必ず滅亡し、何
者かに其れが託されるまで、そう、永遠に、やはり太陽が消えるまで続くのだ
ろう。僕達が生まれてきた理由、それは偶然に過ぎない。自分が死のうが、他
者に迷惑を掛けなければそれでいいのだ。死にたければ、死ねばいいのだ。僕
は自殺等しない。何故なら、詩を書いて居る時だけ、一番自分が正直であるよ
うに思われるから。自分が一番輝いて居る時を見つけられる人間になれれば、
限り有る命が愛おしく感じられるんだ。

僕はこの「世界」の隅に追い遣られた存在を嗅ぎ分け、文字として遺す。五
感を研ぎ澄ませ、日々詩を書く。僕は偶然生まれ、明日偶然死ぬかもしれない。
だから自分が一番輝いて居る時感じたことを記す。それは後世の詩人希望の人
達の感覚を進化させる為であり、感覚がやがて思考と成り、其れがこの宇宙の
全ての謎を解き明かすかもしれないからだ。詩人はやがて宇宙物理学者と成り、
本当の現実を、僕が屑共と思った輩達に知らせるのだ。僕は宇宙物理学者を超
えて哲学者と成り、宇宙の果てに何が在るのか、想いを馳せる。僕の思想に同
調せよ、宇宙の外に広がる、真白い世界を想像せよ。僕の思想だけは宇宙から
対極の位置に在り、其処にもう一つの宇宙を創造しているのだ。





 flower



フロアのワックスが渦を巻いている。銀杏の降る金曜日の午後、自動車が乾
いた飛沫を上げる。福耳にぶら下がる宝石のイヤリングは一体何なのだろう?
その宝石が映し出す僕の理想郷。僕が想像していたクラブとは随分違っていて、
その遠くの外では人気者が裏で馬鹿にされている、僕の笑いの思想はぐにゃり
と潰れていってしまった。女子高生の睫毛のマスカラ。金曜日の真夜中に人々
は二つの派閥に分かれる。つまり、「今」が金曜日のままか、それとも土曜日
のままか、と。僕がまだ一度もアルバイトをしたことが無かった頃、この世界
はそれはそれは美しく僕に優しく、本当の空虚が生まれた時ただ一つの現実と
校庭でキャッチボールをしたんだ。眼球の表面のごみが世界を反転させようと
した。