transcendence
可能だと絶望してしまう。いつもの癖だ。苦しみの地獄に居る今の僕にとって、
彼女は天使だ。何故僕がそんな世界に居るのかというと、僕は愛する彼女にさ
え、蔑んだ目を持って居るからだ。現実でも、夢の世界でも。ピアノを奏でる
様に、僕はキーボードを叩くが、響く言葉の音色は限りなく漆黒に近い。そし
て、僕は?世間一般的に?、人間を愛せない、冷たい人間である、と決めつけ
られるのだろう。蔑んだ後、僕は徹底的に地獄で落ち込み、今現在、彼女と映
画を観に行ったり、何処かへ出掛けたり、そんな、ささやかな、?世間一般的
な?恋愛をしてみたいと思うのだ。だが、僕の本当の性格は此の世の誰にも.
らず醜悪であり、言葉や文章で人間を殺す事だってできるのだ。そんな最悪な、
心の無い人間である。
人間の幸せに手が届かない。そんな僕の本音は独りで生きたい。独りで生き
たいが、此の足枷の為に、自由に生きていくことができない。僕は縁や運命等
は信じる性質では無いが、あの女と出会った事は一生忘れられない。其の女に
愛着が有ると言えば嘘になるし、愛着が無いかと言えば、本当になる。僕は此
の不条理を乗り越えられるだろうか? あの彼女がもう既に誰かの手に依っ
て幸せならば、潔く身を引かねばならなくなり、僕は再びあの永遠と成った女
を?愛し続けなければならなく?なる、何故か、其れはおそらく、僕が孤独で
あるが故に、人一倍愛する、という行為に依存しているからだろう。
enumeration
高価な薬の治癒力の高さ、もう一つの人格との対話と、ドストエフスキーの
思想の偉大さ。世界中の人々の愛の花束、女達の何気ない会話で崩壊する僕の
世界、小説家の夢=人類の野望。僕が最も恐れているのはそういう理不尽な死
だ。彼女に伝えたかった言葉、過去に生きる僕、夜な夜な僕を苛む最大の悪夢、
デジャヴ。其れから逃れたくてイヤホンで蓋をした僕の世界の住人達の最後の
ロマンス。暴君に吠えた犬、一度きりのアイコンタクトに依る意思表示、光と
共に影は昇り、そして沈んで行くのだ。
奇跡への恐怖。憂鬱な晴天。僕とあの子。現実の陰を歩きながら、彼女の手
を離したくない。本当に其れだけでいいんです、でもやっぱり、彼女の全てを、
僕は愛したい。もし、彼女と結ばれる事が無ければ、途端に女達が他愛も無い
御喋りを始め、世界のあらゆるところから無声が飛び交い、其れは僕が自殺す
るまで続くだろう。陳腐な表現であるが、全ては?死?と表裏一体であり、僕
は世界一貧弱な精神を持っていて、彼女の心がただひたすら、僕一色であるこ
とを此の心臓が止まるまでに嘘でも知りたいのだ。
三十分の夢が永遠から有限に変わり、僕の内から解体されていく。過去に生
きない僕、ただ、ひたすら、現在、未来へ進み続けたい…。TVに映る現在時
刻、彼女の優しさ。僕は其れを北極に永久に埋めておきたい位だ。何気無い天
才的な詩文が牧草ロールの様に、近所の道路に転がっている。僕は彼女の顔を
眺めるだけで、ますます彼女の事が愛しくなるのだ。其れには底が無い。しか
し、もしかしたら、彼女に恋人が居るかもしれないので、其のショックの為の
避難場所として、?あて?を設けなければならないのは、やはり僕は世界一貧
弱な精神の持ち主であるし、もし、?あて?が無ければ、僕は確実に廃人と化
すからだ。抽象的な羅列の文章、其れ等は全て僕以外の他者にとって、無意味
なものであるが、僕の胸の中で羽化した彼女の様な蝶が、鱗粉を振り撒き、愛
らしく微笑まずにはいられない、幸せな六時間という至福をカラカラの心に浸
す。嗚呼、僕の心は今、正に幸福の、いや、まるで夢物語でもみて居る様だ。
こうやってパソコンを打って居る時も、常に脳裏では愛くるしい彼女の姿が浮
かんでおり、其れ故に、こんなにも厳しい現実で凍えた体ですら、みるみるう
ちに僕の胸元から暖かく成る。
春の海辺、僕と一緒に砂浜を歩く、彼女。ほんの.しの幸せでいいから、僕
は彼女と一緒に、二人だけの愛が成熟するまで、ずっと一緒に居て欲しい。そ
うすれば、御互いが幾ら遠い場所に其々居たとしても、僕の夢と貴女の夢との
距離は常にマイナスだ。デジャヴと異常発達した頭脳から抜け出す為には、や
はり、生涯の伴侶に最も相.しい女性と結ばれるしかもう、手立ては無いだろ
う。汚れた川が底を抉りながら僕の元へ近付く。日中も、真夜中も、僕は心の
中を無にして、フィクションと心の叫びを書き続け、其れが藝術の域にまで達
している事を僕は誰よりも早く察しがつく。生きて居る気がしなければ、直ぐ
に創作活動を中断し、貴女の事を考えながら、悲観的な絶望を、肉体的・精神
的疲労よりも、違う高次元の総エネルギーの減.に依って、脳裏を純白にし、
背中の筋肉が爛れていく様な、そんな普通、今までの僕の日常生活では体験す
る事のできないに違いない、非現実的な、そして未来の新世界への羨望に依る、
恍惚が全身に染み込むと、此の先、僕にどんな困難が待ち受けていようとも、
もし、あの子の為に、理不尽な社会の骨組で在る、羅列という柱が邪魔な存在
ならば、直ぐに僕が撤去しよう。
misbelief
世界の断片、ホットカフェオレを飲んで此の想いを包み直す早朝。拓けた世
界、老いて行く僕等。でもきっと僕は、君を一度抱き締めたらずっと離さない
だろう。?貴女?よりも?君?と書いた方が、僕にとって君にとても愛を伝え
られる、クリスマス、一緒に過ごそう。こんな顔の僕だけどさ、僕だって人間
だから、人並みに幸せに成りたいのさ。まだまだカフェインの足りない早朝、
腱鞘.気味の左手首、発想の消えた現在。樋熊に追い掛けられる女、大好きな
君、僕は君を愛して此の世に生きて居る。どんなラヴソングに込められた想い
よりも、僕の君への其れは深いのだ。胃の中を温めるホットカフェオレ、犬の
涙。夢、時計が起きる時間、空耳、春の桜の為の唄。僕が馬鹿である為に思わ
ず白けてしまう、詩作中の詩、其れは僕の経験に基づく、確信的な事実だ。君
にも、僕にも、共通の幸福が舞い降りて来てくれます様に……。
僕にとって、短編や純文学を書くのが苦手であるのと同じ様に、僕の感情の
中心に?僕?を勝手に溶け込ませる右から二番目の人間達が苦手であり、大嫌
いであり、雨の中、あの橋の下に漂う香水の匂いは無限に想像力を高めてくれ
る。独りきりじゃない君の御蔭で、僕は孤独に成れる、脳裏の現実的心象が白
濁とした……カフェインがやはりまだ足りない。喉の渇きが半端ではない。詩
的認知症の僕は、過去を振り返る楽しみを後回しにして、やはりテンションが
下がってしまう一時間後の僕の為に、幽霊からエールをもらう。
一時間後、別の意味でテンションが下がってしまった。つまり、君と、覆し
切れない神の悪意でもって、離れ離れに成ってしまうのではないか、という不
安に駆られたのだ。僕は破れた面皰から滲み出る汁の、硫黄の匂い、其れは、
塗り薬の匂いだが、を嗅ぎながら、思考が白く停止した。友人の車に同乗して、
作品名:transcendence 作家名:丸山雅史