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transcendence

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あれ程決別を決意した海と出くわす事になるだろう。南国の白夜、眠らない氷
山の蜃気楼、僕と彼女は同じ唄を輪廻させて聴いてこの地球上に存在して居る。
生きる力をくれたドストエフスキー、詩作の喜びを教えてくれた此の唄、僕は
決して同じ苦悩を味わう事は無いと、僕と同化した此の隣の彼女に断言できる
だろうか。

彼女に夢中に成り過ぎて麻痺していた想像力、此れが愛の魔力なのだろうか。
動物達の横断と共に視界の右端から左端へ駆け抜けて行った列車。コンクリー
ト色の猫の黄色い瞳、屋台、微かな闇に蠢くサラリーマン、熱を失っていく此
の肉体、モノクロのビートルズ。もう、何者かに憑かれた気分はしない。歩き
疲れ果てた僕達はカプセルホテルでシャワーを浴び、汗と汚れを落とし、タオ
ルケットの代わりに打ち解けた二つの心で、互いを互いの肉体で包み込んで眠
る。やがてやって来るであろう、永遠の別れに心の光が弾け飛び、現実が世界
の地軸を傾けた。南国に初めての夜が三日月と共にやって来て、空には満天の
星々、僕の背中には孤独の時に身に付いた脂肪が凝りと成った。

目が覚め、白で統一された自宅で、僕は両耳から電池の切れたウォークマン
のイヤホンを外す。波音が、独りきりが好きな僕の心を落ち着かせ、窓辺の仕
事場の椅子に腰を下ろし、青空と大海原の間に胸の痛みを投影させる。其の真
下の砂浜に、流木が一本転がって居て、僕は其れが将来、僕が誰よりも愛する
恋人の様な気が堪らなくして、久し振りにパソコンに向かって詩作を始めたの
だ。





 truth



四月の北の岬。溝鼠色の雲が低く垂れ込んでおり、僕は今、胸の中を過ぎっ
た女の事を考え、心の溝に彼女が飲み込まれて行くのを助ける事ができない。
生温い風が僕の涙を抉り、其れ等は其の女への手紙として来世生まれ変わるの
だ。失望と孤独から生じる温かい心の痛み。灯台の様な僕は、.しでも傾くと
難破船を何隻出すのだろう。僕は瞼を閉じ、風と同化したがっているのだ。

憂鬱が、生涯消える事の無い憂鬱が、僕に睡魔を寄越すのだ。背筋を伸ばし
て胸を張り、.しでも其れが悪循環しない様に気を付けてみる。胸の階段を下
り、虚ろな靴音を立てて。憂鬱は昨日の夜からずっと降り注いで僕の詩作意欲
を削り、一体全体、僕を廃人にしたいのだろうか。荒れ果てた心、胃の痛み。
あの女に告白した夜から、僕の人生は狂い始めたのかもしれない。此の人生を
全うすれば、僕はまたあの女性に再会する事ができるのだろうか。もし本当に
そうならば、僕は天国を信じるのだが。

詩と一部と成った言葉達は此の風に乗って世界を回り続ける唄と脱自して
欲しい。今、僕が口ずさんで居る此の律動の様に。書きたい言葉が無数に有り、
其れ等は此の頭の中でくしゃみをしながら躍動中だ。ソフトクリーム型の螺旋
階段、を僕と女の胸の痛みで縦に押し潰し、ほうじ茶を飲む。此の偏屈な世界
に絶望した十年以上前の、空に時計の無かった冬。幻想の夕的な理想世界。僕
はたった一つの単語に蓋をして居る。そうして生き続けて居る。おそらく、己
の目的が達成されるまで僕は其の言葉の存在を忘れる様に努める事を惜しま
ないだろう。あの女の事を考えると頭がおかしく成りそうだ。昔、僕はそんな
柔な男では無かったのに。自分を極限まで追い詰め、作品が完成した時の喜び
は譬え様の無い至福の時だ。珈琲を嗜む。

ロックを聴くのに疲れ果てた脳。其れから滲み出る哀愁の糸。僕はあの女の
事をまだ考え、「早く忘れられる事ができるだろうか?」と自問する。何の制
約も無い散文詩を早く書きたい。しかし其の制約とは僕にとって?時間?とい
う概念であり、この地をじりじりと照らす季節を過ぎなければ僕は救われない
だろう。甘ったれた考えは打ち捨てろ、と鏡に反射する心よりコンパクトな僕
の肉体。頭の中から流れて行った友人が埋葬されたがって居る、死にたがって
居る。僕の中で総括された?女性像?は、あの女の次に魅力的だ。その一部分
と成った自殺した女が深夜二時の此の居間を何度も横切って行く。溶け合い、
消えて行く心象と不安。イコール、プラマイ0という訳だ。

パソコンの前の椅子に座り、いつもの様に思詩作に耽って居ると、休日、家
族とドライブに行った時に体感した、重力の存在に気が付く。悲しく辛い空想
をして居ると、多.の眠気と寂しさに飲み込まれてしまう。視界が右回りに反
転し、始線から其れ等が引っ付いて僕を睡魔と死者の坩堝へ誘おうとするのだ。

暫しの間瞼を閉じて居ただけで昨日の記憶が一つの絵と成り、冷たい夢をみ
る。其れは外界の気温にも影響が有るのではなかろうか? 一度心を許した他
者に裏切られる悲しみ。此の決して平坦では無い人生を終えた後も僕は詩作を
続けられ、他者に心の内を?藝術?と昇華させて見せる事ができるのだろう
か? 未来永劫、繰り返される此の人生。生き抜く者も殺される者も、罪を犯
す者も、皆未来永劫此の世の人生を繰り返すのだ。其れが倫理等という幻影で
は無く、真実なのだ。





 dependence



緑の木々が揺れ動き、豪風に依って傾いた僕の思考は中断された。読み終え
た文庫本の魂が抜け、少し軽く感じられた。深夜のモデルルーム、ベランダか
ら覗く、枯葉の切ない散歩。僕は玉虫色の女に抱かれて彫刻と化した、あの子
…いや、あの女が愛くるしくて、愛くるしくて。僕は夢の中で何度も射精し、
祖父の葬式に参列するグランドファザコンなのだ。ヨーグルトの海に精子はば
ら撒かれ、真理を探り当てる合間に、偉人達は突拍子も無い事を言い出す。「文
学とは藝術である」、ポエムとは─僕はたった今から、自分の疲労感を客観的、
つまり、表情を見ずとも、表情が理解できる様に成ったのだが─譬え完成品が
額縁に収まらなくとも、ジグソーパズルをより美しく、?並べて?、如何に現
実との差別化を図ってあるか、という代物である。

死別しました。僕はバッタをスプレーの火.放射で焼き殺しました。僕は人
間として生まれて来て良かったのか? 無免許運転者を処刑して。貧弱な想像
力よ、ランボオはあいつ、一体、何だったのだろうか? 微かな肉体の震えと
共に蘇る.分前の記憶。前日食べた秋刀魚の魂は漁に出掛けたまま、帰って来
ませんでした、脂取り紙。神様のコレクターの中から愛くるしい女を連れ出し
て、僕は、「可愛い、可愛い」と連呼。彼女は僕の喉の飢えを癒してくれる、
同じ空間に居るだけで、陳腐な胸が高鳴り……。

残された言葉を補充する為に日々を生き、詩を書き続けて来た事にようやく
気付いた今朝、「僕」という言葉が?僕?にとって大事な?接続詞?である事。
烏は新聞を広げ、啄木鳥は別の女のヴァギナを突っ突き続けたという記事を見
て、大事そうに其れを脳に染み込ませて満喫する、南国のビーチ。僕の好きな
彼女の存在する空間の匂い、趣を常々感じさせ、音楽への興味をひくのだ。詩
作の修行僧よ、さようなら。僕はきっと、何度も君を超えてみせるのだ。

彼女が僕の心の中に居ない時、僕の心は衰弱し、もう彼女を愛することは不