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MARUYA-MAGIC

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なり、彼女達に会いに、この楽園までやって来るのだ。─決して妻に対する愛
情が無くなった訳ではない─、─ただ、彼女達を記憶の楽園から抹消する為に、
彼女達が生きていた頃に伝えられなかった想いや、死んでからの心の喪失を浄
化させる為に─、彼女達はこの楽園に永遠に存在し、記憶に存在できなくなる
ことを拒まない。拒み続けるのはいつまでもこの自分自身だ。

彼女達は生前の記憶を持っていない。汚れなき純粋な心を持ち、いつものよ
うに森へ行こうと誘ってくるが、その森の中へ入ると二度と過去の呪縛から逃
れなくなる。つまり、死んだ彼女達をいつまでも現.世界で想い続け、心の喪
失で「父親」として正常にいられなくなる。おそらく妻への愛情も途絶えて、
最悪には離婚ということになるかもしれない。しかし自分はいつも彼女達と森
の入り口で中に入りたい欲望を堪えて彼女達と戯れる。もし森の中に入ってし
まえば、彼女達と性交に明け暮れるだろう。仕事にも行かず、家族の誰とも話
すこともせず、ただ黙々と指を動かして、延々と自分の殻に閉じ籠もって理想
の楽園で生前.らなかった快楽に耽るのだろう。そうして子供や妻はこの家か
ら出て行き、「一人」となって、しかしそれでも体が朽ち果てるまで記憶の楽
園での描写を続けるのだろう。


気が付いてふと時計を見てみるとまだ前に時計を見た時から二時間も経過し
ていなかった。居間に一人でパソコンの液晶画面を睨み、キーボードを叩いて
いると、魂が青くめらめらと疼くのが分かる。おそらく伝えられなかった気持
ちや心の空虚さなんかは一生かかっても報われないものなのだろう。記憶の楽
園に入り浸ってからその事.に薄々と気付いていたのだが、しかし彼女達に「依
存」することは自分の殻をさらに硬くすることであり、依存から脱却してしま
うともう何処にも心の休息を取る場所がなくなり、現.世界で生きていくこと
が困難になるであろう。

だから今夜は─楽園は永遠に昼間だが─、彼女達に「もう此処には来ない」
と告白した。すると予想外に彼女達はうっすらと笑顔を浮かべ、「その言葉を
私達はずっと待ってたの」と答えると突然空が暗くなり始めた。その時思った、
あぁ、この世界の時間も現.世界と同じように彼女達に平等に流れていくのだ
な、と、楽園の彼女達もやがては朽ち果てる身となるのであろうと、そのこと
について訊いてみると、「それが末当の死者の生き方じゃない」と一人の女性
は微笑んで答えた。陽が完全に沈み、薄暗くなった空の下で、二人と握手をし、
立ち去ろうとすると、彼女達はもう一度私の名前を呼んで呼び止め、「私達は
?森?に還るわ」と言うと、二人仲良く手を繋いで闇の口を歩いていった。











夢見る宇宙



この心の宇宙を彷徨う君、その中に手を突っ込んでみても君を捕まえること
は中々難しいことだろう。宇宙は夢見ている、いつか君と誰にも邪魔されない
静かな鬱蒼と生い茂る森の近くに家を建てて二人っきりで暮らすことを。その
為に宇宙は地球という美しい惑星を拵え、君を其処に招き寄せた。人間は一人
では生きていけないとよく聞く、ならば二人きりで生きていくことは可能なの
だろうか? と自問する自分、ようやく自分も地球に住む資格を手に入れたの
で、心の中にある宇宙に飛び込んで、地球を目指して前進し始めた。どの位の
時間がかかっただろう、おそらくは詩を九百編ぐらい書く時間がかかったのだ
と思う。遙か彼方に太陽系を発見し、その青い光を放つ第三惑星、俗に言う「地
球」の元へと辿り着いた。何だかんだで地上に降り立った時には、服が全て燃
えて全裸の状態だった、代わりの服を買うお金も全く持ち.わせていなかった


ので、男達はケラケラと嘲笑し、女達は悲鳴を上げて逃げ出し、警察に通報さ
れて、東京というコンクリート・ラビリンスを昼夜問わず逃げ回った。

ある夜、東京湾に無数に乱立するとある倉庫で仮眠をとっていると、突然入
り口が開き中国人らしき人間達が此方の荷物の山に向かって歩いてきた。見つ
かったら確.に殺されると思い、急いで荷物の中に体を滑り込ませると、巨大
な重機によって荷物の山は持ち上げられ、そのまま外国船に積み込まれて、日
末を出航した。

意識が覚めると見慣れない外界の風景に一瞬我を失った。暫くの間景色と記
憶を照らし.わせながら思索していると、此処がフィリピンであることが分か
った。しかしその時、無意識に荷物の中から飛び出して、全裸のまま大声で、
フィリピンだ!! と叫んでしまったので、船員達に自分の存在がバレて、体
が蜂の巣にされそうな程の銃弾を荷物に撃ち込まれた。すると穴の開いた荷物
からは覚醒剤が溢れ出てきたので、自分の体を見てみると、自分の体は覚醒剤
塗れだった、急いで船から海へ飛び込み、陸に上がって、首都であるマニラの
路地裏に身を隠した。其処では孤児達が地下道に住み、食事は近くの教会のシ
スター達が無償で食べさせていた。其処で自分も服を貰い、数日ぶりの食事に
ありつけた。数日間お世話になった後、孤児達やシスター達に、「誰にも邪魔
されなくて近くに鬱蒼と生い茂る森がある場所は何処か?」と質問すると、彼
らは、「先日も貴方と同じような質問をした女性が此処にいて、『フィンラン
ドなんかはどう?』と答えてみると、お礼をして、何処かに消えちゃった」と
教えてくれた。その女性とは間違いなく君であり、君は自分と同じように理想
郷を目指しフィンランドへ向かったのだ、と確信すると、彼らにお礼を言い、
自分もまたフィンランドへ向かうことを決心した。

その後は日雇いの仕事をして空腹を満たしながら、ひたすらフィンランド行
きの船が港に来るのを待つ日々が続いた。そして.十日後、ようやく目当ての
船がやって来て、木材を降ろしたそれのバナナの冷蔵.に身を潜まし、寒さに
耐えながらフィンランドに着くのを待った。数週間、ずっとバナナを食べて生
き延びていた。そしてついにフィンランドに到着すると、人々にカタコトの英
語でありとあらゆる巨大な森のある場所を聞いて.際に足を運んだ。しかし君
は何処にもいなかった。苦労の果てに諦めの感情が高まり、とある森から遠ざ
かろうとしたその時、涙を浮かべた君が目の前に現れ、茫然自失となり言葉を
失ったが、君と再会できた喜びを爆発させると、真昼だというのに青空に流星
群が見えた。












千年の朗読



死んでいた詩を朗読して命を吹き込み、蘇らせる君、君の存在はあまりに尊
く、眩しすぎて直視できないくらいこの心の中で重きをなしている。君の住ん
でいる街は、大きく北へ曲がった先の、最果ての崖っぷちの森林の中にある、
この駅のプラットホームからでも街の象徴である記念塔が突き出して見え、.
分間隔でやって来る汽車に乗って今日の仕事場へと急ぐ。

詩人としての詩作以外に、インターネットの中に埋もれていた古の詩人達の
詩を見つけては、君の元へ持っていき、街の自分が経営する夜のライヴハウス
で君に朗読してもらっている。小さな「ハコ」は、連日満員で、この国の地方