MARUYA-MAGIC
その夜に君に話した、それに付け加えて、「一緒にヨーロッパに行くよ」と約
束した。しかし君はこの生まれ故郷の.川を離れたくない、と止め処なく涙を
流して僕に抱き付いてきた。「じゃあ、森の中に身を隠そう」と僕は君を抱き
締めた後、君を連れて、自転車を漕ぎ、とある山奥へやって来た。僕達は自転
車を茂みの奥へ捨て、延々と続く山中を歩き続けた。するとある時、一軒のバ
ラック小屋が茫々と生い茂る草の中に埋まっているのを発見した。僕達はその
中へ入るや否や、激しいキスを交わし、何度も何度も何度も性交をした。僕達
の性欲は尽き果てることがなかった。そしてそれが終わると、君のお腹に耳を
当てて、赤ちゃんの胎動にずっと耳を澄まし、いつの間にか眠ってしまった。
朝になると、僕の隣の君は灰になっていた、そしてその中心に、女の赤ちゃ
んが全裸ですやすやと眠っていた。僕はその赤ちゃんを抱いて「.橋火葬場」
へ行ってみると、君の葬式は既に終わっており、カウンターの女性に、「何時、
終わったんですか?」と訊ねると、「丁度八ヵ月前に終わっています」と彼女
は素っ気なく答えた。僕の腕の中で?君?との赤ちゃんが鳴く。僕はその足で
ベビー用品店に向かい、服を買い与え、ミルクを飲ませた。
「.橋火葬場」は去年の八月に取り壊された。僕は東京でこの不景気の中、
奇跡的に再就職に成功し、一人で君との、きっと君との女の子供を育てている。
最近は一人で食器を台所に持って行くことができるようになった。保育園でも、
君に似たのか、一番頭が良いらしい。ちゃんと自分の母親は死んでいないこと
も知っている。そのことで悲しい気持ちになったことは一度も無いという。い
つか、この子は、僕と君の故郷である.川へ行ってみたい、とお願いすること
があるのだろうか。僕には、彼女の衝動を抑える権利はない。
Dear wonderful world 2009.6.7 1:
26
澱んだ雲の下、代官山のカフェテラスにて、僕は、「世界」に向けて、ノー
トパソコンにてEメールを認める。「こんにちは、僕はあなたの仕組みについ
て自分なりに大体把握できたような気がします。なので、僕にもっとあなたの
謎を下さい、もっとあなたの謎を下さい。何故なら、最近あなたについて考え
る時、僕は、その行為自体、『陳腐』や『凡庸』だと思わずにはいられないの
です。僕はまだ若いのに、あなたの事を知り過ぎてしまった。人生とは謎解き
の快感を楽しむ為に『存在』するものであり、そのことに気付けない人間の為
に、僕達のような詩人が存在する訳なのですが、やはりそんなことに興味等無
く、他の『道楽』を嗜む人間も存在するわけで、それでは、『あなた』の存在
という観念は何の意味も持たないことになりますよね? なので僕達詩人に託
された宿命とは、完璧に『あなた』を世界に提示することだと思うのです。僕
の詩作品程、あなたの『世界』における定位を我が親友のように考察したもの
は無いと思うのです、勿論、『世界』とはあなた自身よりももっと大きな存在
のことでありまして、『新世界』とでも名付けておきましょうか─、極論を言
うと、あなたと『新世界』に、『世界』は二分化してしまうのです。あなたで
あるか、それとも、あなたではないか…、それだけだと思います。今現在、地
球上の『世界』では、馬鹿らしい争いや、どうもしっくりとこない『平和』で
溢れていますが、僕の理想は、意外と思われるかもしれませんが、悪を根絶す
ることなんです。根絶することなんです、そして悪に汚染された人々を、洗脳
し直すことなのです。人間は正しいことだけに、『洗脳』されていればいいの
です。何故なら、人間は途轍もなく無能だからです、なので、僕達詩人は、『大
きな世界』─それは途轍もなく大きな世界なのです─、でも通用できるような
人間を、『洗脳』によって育成し直さなければならないのです。.なくとも僕
は、そういう使命を託された人間の一人であると、─自意識過剰でも何でもあ
りません─、思わざるを得ないのです。此処東京では、一千万の思想が、僕の
それを煮え滾らせるのです。─僕はもっと、もっと、『あなた』に、いや、『あ
なた』の中の全人類達に対して、自分の考えを広めたい─、そのことについて
考えると、ふいに僕は叫び出したくなります。『俺がこの?世界?を変えてや
るんだ!!』と、やはり自惚れ過ぎですよね(笑)。しかしこの僕にはその位
のことしかできそうにないのです。その位のことぐらいしか、僕は愛しい人を
完全に愛することもできないし、心の奥底には『あなたの死に様を見て腹を抱
えて笑いたい』という、『悪魔』的な自分が棲み付いていて、あなたの中で不
幸なことが起きると、気分が良くなることだってあるとんでもない人間なので
すから。ですから、人間を信じてはいけません。どんなに善良面している人間
でも、頭の中では何を考えているのかなんてその末人以外に分かる訳なんてな
いのですから。僕はこの人生の中でそういう人間と巡り会ったことが何度もあ
るのです。そういう人間の共通点とは、たった一つ、『あなたという存在に対
して何の興味も無い』ということです、あなたを責めているのではありません。
ただ、僕は、真.というよりも『現.』を述べているのです。彼らは、自己中
心的であり、可哀想な程『無知』でした。きっとこの東京にも、似たような人
種の『ニンゲン』がうようよしているのでしょう。だからそういう『ニンゲン』
達の為に、僕はこれからも詩作を続けていくつもりですし、僕があなたの代わ
りに、『世界』となることを約束しましょう。そしていつかは、『大きな世界』
になりたいです」
生まれつき君が好きでした
告白します。僕は、生まれつき君が好きでした。ここで尊敬語を使うのは止
める。母親の子宮から外界に出た時から、僕は、君のことが好き、いや愛して
いたんだ。名前も顔も何も知らないのに、僕の脳裏に君の心象が浮かんで、僕
は生れてから十八年間、君を想っていた。そうして初めて君と出会った時、僕
は、その先の人生の歯車が狂うぐらい、君の虜になってしまった。そして僕は、
末当に君のことを愛しているのか分からなくなるぐらい、恋愛感情が麻痺して
しまった。そんな時はよく君の唄を歌った。すると凝り固まったそれが徐々に
解けていき、その染色体を含む細胞が分裂を始め、拡大していった、葡萄の生
る木の森の中で、僕は今、一人で詩作に励んでいる。この楽園のような森の中
に住む代償として、僕は毎日必ず詩を一篇書かなければならない。
腹が減って、葡萄の木に攀じ登り、広大無辺な葡萄の森を見渡す。そして葡
萄の房を.ぎり取り、.を一粒口に放り込む前に、それを注意深く凝視すると、
君の存在する、膨張が停止した一つの宇宙に見えた。そしてこの粒を生み出し
た葡萄の木自体が「マザー・ユニヴァース」に思えてならなかった。.際に、
この惑星を包む宇宙とは、「マザー・ユニヴァース」によって生まれた、とい
作品名:MARUYA-MAGIC 作家名:丸山雅史